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技術革新等に伴い変化しつづけるエンタメ業界。そんな時代だからこそ、拠り所とすべきは「著作権法」ですが、「法」に対していきなり細かいところをつつくのではなく、「その全体や構造、考え方を『ざっくり』学んでしまうことが近道だ」という趣旨でご紹介する連載、その第7回です(※前回より、だいぶ間が開いてしまい、すみません)。

第6回では、著作者に対して与えられる「著作権」とは、著作物が持つ(、特にその著作物が人気となってきたときには、大きくなる)「財産的価値」を守ってあげるものだ、という話をしました。
https://onion-tmip.net/update/?p=1042

他人が勝手に著作物を利用していたら、著作者自身の利益が失われてしまうわけですから、「私の権利を侵害してますよ」と言って止めさせる(権利行使)ことができるのは、財産としての価値を守る意味で大きいですよね。
また著作物を正しく「利用したい」と申し込んできた人に、著作権の利用を「有償」で許諾すれば、そこから収入が得られるという意味で、やはり財産としての価値を享受することになります。さらに、その著作権を「売って欲しい」という人に、希望の金額で得る(譲渡)することができれば、まさに著作物の財産的価値を実感できることでしょう。

しかし、そんな著作者が享受すべき権利を、一部 ”制限”する、つまり、

他の人が利用していても、著作(権)者が「止めて!」と言えないようにする規定

が、著作権法にはあります。それが、みなさんも耳にしたことがあるかもしれない「(権利)制限規定」というものです(著作権法30条〜47条の8)。

でも、せっかくの著作者の権利に対し、なんでそんなことをするんでしょう?

確かに、著作物を創作した人はすごいです。そんな著作者には、その財産的価値を守れるようにする「独占的権利」である著作権を付与すべきでしょう。ただし、そうした創作も、既に世に存在した先人の文化的遺産を基礎にしているのであって、「社会一般の利益と調和」という観点も、非常に重要になってきます。その調和が取れないほどに著作権の力が過剰であれば、むしろ(著作権法の目的である)文化の発展の妨げとなってしまうかもしれず、本末転倒ですね。

そこで、一定のケースでは、著作者の権利を制限する、すなわち「『他者の利用を止められる』という強い力を弱める」ことで、著作物の公正円滑な利用を図るほうが、むしろ文化の発展に寄与するでしょう、という考え方からの規定なのです。

と説明しても、ちょっと抽象的ですね。だったら、具体的にその制限規定のタイトルを見ていきましょう。まず、一番最初に登場する制限規定が、こちらです。

◎私的使用のための複製(第30条)

条文の第1項柱書だけ抜粋しますね。

第三十条 著作権の目的となつている著作物(略)は、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること(以下「私的使用」という。)を目的とするときは、次に掲げる場合を除き、その使用する者が複製することができる。

(以下略)

他人の著作物を、勝手に複製(コピー等)すれば、その著作物の著作(権)者の著作権のうち(※)、「複製権」を侵害することになります。(※ひとことで著作権といっても、いろいろな「◯◯権」を束にしたような概念だ、と以前ご説明しましたよね)。

しかし、あくまで個人的に(※)使用するのであれば、「複製権」を制限して、誰でも自由に使用させてあげよう、という規定です。

(※「又は家庭内」ともありますから、家族の間での使用も含むでしょうね。その後の「その他これに準ずる限られた範囲内」という内容は、解釈の幅がありますが)。

つまり、他人の著作物がつまったレコードやCDなどを、録音する(昔は「カセットにダビング」なんてやってましたね)という行為は、複製権者に見つかっていないからセーフなのではなくて、この30条の制限規定があるから、堂々とセーフなんだ、ということです。

ただ、上記では「以下略」としてしまいましたが、ここでは「例外の例外」、つまり30条の適用外ですよ、というケースも細かく規定されています。ここでざっくりポイント:

「日本の制限規定は、適用されるケースが、かなり細かく具体的に規定されている!」

ということですね(→細かくではなく「おおまかに」規定している国もあるんです。それはまた別の機会に)。

「最初は30条の規定にあてはまっていたけど、対象からはずれちゃいますよ」というケースもあります。たとえば、最初は自分が楽しむためだけに録音した(他人が作詞作曲の)音楽を、誰でも見れるウェブサイト(のサーバーに)アップロードしてしまったらどうでしょう?そうすると、当初の「個人的に使用することを目的」という要件から外れてしまうので、アップロードが「公衆送信権」侵害であるだけでなく、さかのぼって録音した行為も「複製権」侵害となってしまう点も、注意が必要です。

さて、30条を皮切りに、

「一定のケースでは、著作(権)者に許諾を得なくても、著作物を利用できますよ(※ただしもろもろ例外あるけどね)」

という制限規定は、まだまだたくさんあります:

◎付随対象著作物の利用(第30条の2)、検討の過程における利用(第30条の3)、著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用(第30条の4)

◎図書館等における複製(第31条)

◎引用(第32条)

◎教科用図書等への掲載(第33条)、教科用図書代替教材への掲載等(第33条の2)、教科用拡大図書等の作成のための複製等(第33条の3)

◎学校教育番組の放送等(第34条)

◎教育機関における複製等(第35条)

◎試験問題としての複製等(第36条)

◎視覚障害者等のための複製等(第37条)、聴覚障害者のための自動公衆送信(第37条の2)

◎営利を目的としない上演等(第38条)

◎時事問題に関する論説の転載等(第39条)

◎政治上の演説等の利用(第40条) 

◎時事の事件の報道のための利用(第41条)

◎裁判手続等における複製(第42条)、行政機関情報公開法等による開示のための利用(第42条の2)、 公文書管理法等による保存等のための利用(第42条の3)

◎国立国会図書館法によるインターネット資料及びオンライン資料の収集のための複製(第43条)

◎放送事業者等による一時的固定(第44条)

◎美術の著作物等の原作品の所有者による展示(第45条)、公開の美術の著作物等の利用(第46条)、美術の著作物等の展示に伴う複製等(第47条)、 美術の著作物等の譲渡等の申出に伴う複製等(第47条の2)

◎プログラムの著作物の複製物の所有者による複製等(第47条の3)、電子計算機における著作物の利用に付随する利用等(第47条の4)、電子計算機による情報処理及びその結果の提供に付随する軽微利用等(第47条の5)

…多いですね。この中には、比較的「そりゃそうだよな」と理解・納得しやすいケースを規定しているものもあれば、理解が難しいもの、あるいは(想定しているケース自体は、理解しやすいんだけど)条文が難解で具体的なケースをイメージしづらいものなどが混在しています。次回以降、ある程度グルーピングしながら、解説していきたいと思います。

(次回はこちらです→ http://onion-tmip.net/update/?p=1321

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