「〇〇」という名前でお店を経営していたり、「〇〇」という商品をウェブサイト等で販売していている事業者の皆様の元に、ある日突然、
「あなたの〇〇の使用は、弊社の商標権の侵害です」との通知が届いたら…
「そんなこと、レアケースなんでしょ?」と思われるかもしれませんが、弁理士のもとには、毎年、一定の件数でご相談がくるケースです。
もしそんな事態が生じたら、まずは「知的財産の専門家である弁理士(、中でも、特に商標を専門とする弁理士)にご相談ください」というのが回答なのですが(※もちろん、顧問弁護士がいらっしゃる方は、そちらへの相談も正しいです。訴訟の専門家である弁護士経由で、私ども弁理士にご相談いただくこともあります)、
通知の方法などから、ある程度「緊急度」が類型化できますので、今回は、そのような通知を受けてしまった方が、一次的に状況を整理し、弁理士等への相談の事前準備の手がかりにしていただくことを目標に、記してみたいと思います。
以下は「侵害の通知(警告)」の内容に応じて、分類・解説していきます。
★1.通知/警告は、どういう「方法」で送られたか
一般的に、通知の主体(誰から送られているか)や、通知の方法によって、相手方の警告のレベル(温度感)を判別できる場合があります。
まずは、通知の方法ついては
・電子メール(eメール)
・電話
・SNS(Instagram、X等)
・FAX
・普通郵便
・内容証明郵便
等があります。この中で、最も厳しい態度であることが予測ができるのは、
内容証明郵便が、先方の態度が一番厳しい
と、一般的にはいえるでしょう。
ただし、皆さんの事業の「住所」が公開されていない場合には、そもそも先方も連絡可能な手段が限られますので、eメール等であっても、厳しい態度であることがありますので注意が必要です。
★2. 通知/警告は、「誰から」で送られたか(通知の主体)
通知の主体が、先方(商標権利者)「本人」からなのか、それとも何らかの「代理人」からなのか、もポイントの一つです。
これもあくまで一般論ですが、
代理人の名前での通知のほうが、先方の態度が厳しい
特に、「弁護士と弁理士の連名」は、先方の態度が最も厳しい可能性がある
といえます。なぜなら、代理人名義ということは、専門家に相談の上、ということになりますが、通常はこれらの専門家は有償で対応をしています。それだけ、先方(商標権者)が事態を重く見ていると想定できる、というのが一点。
また、専門家が相談を受けた上で、通知をするだけの理由がある。つまり、商標権侵害の可能性が
そして、後者が「最も厳しい可能性」があるというのは、知財の専門家である弁理士だけでなく、訴訟の専門家である弁護士にも相談している、つまり、「通知の段階で訴訟も見据えて対応している」可能性が考えられるためです。
なお、商標権者自身による通知でも、気持ちの面では「怒り」が強い場合もあります。ただ、専門家の意見を聞いていないが故に、「商標権侵害かどうかは、内容を見てみないとわからない」面は大きくなりますので、こちらも冷静な判断が必要です。
★3. 通知の「内容」にある重要ポイント
通知の内容は、特に専門家である弁理士・弁護士に、判断を仰いでいただきたい点なのですが、その相談をスムーズに進めるうえで、伝えるべきポイントがあります。
一般的な通知/警告の場合、まずは
・商標権の存在を知らせる内容
(具体的には、登録番号、該当の商標、商品役務の区分、権利者の氏名又は名称 等)と
・あなたの使用状況
を知らせた上で、商標権侵害の疑いがあることが記載されていると思います。
次に、相手方の要求ですが、通常は
・「(当該商標の)使用の差止」
が求められているかと思います。
これに加えて、通知に対する「回答の期限」と、期限内に適切な対応がない場合は「法的措置を辞さない」といった内容が記載されていることが一般的です。
★4.「本当に商標権侵害なのか?」専門家が判断するポイント
ここからは特に、専門家であるわたくしども弁理士が、確認を行いアドバイスさせていただく領域になりますが、対応の検討にあたっては、以下の事項を確認し判断する必要があります。
①本当に相手方の商標権が存在しているかどうか。
通知書面(メールなど)にある内容はあくまで相手方の主張であるため、本当にその商標権が存在しているのか、つまり「商標権が(存続期間が満了等により)消滅していないか?」を確認したり、
「商標権の持ち主が、本当に先方」なのか?
は、最初に確認する必要があります。特に、専門家である代理人を介さずに、本人により通知されている場合は、特に確認が重要です。
②こちらの使用範囲が、相手の権利範囲と重複しているかどうか。
先方の商標権に係る指定商品又は指定役務と、実際にあなたが使用している商品、サービスの範囲が一致しているかを確認する必要があります。
商標権に係る指定商品又は指定役務と同一又は類似の商品・サービスについて、使用していない限りは、商標権侵害には該当しないからです。
③こちらの使用している商標が、先方の登録商標と、同一又は類似しているかどうか。
そもそも、先方の登録商標と、あなたの使用している商標が同一又は類似といえるかどうか、似ていなければ、当然商標権侵害に該当しないからです。
ただここは、「これで商標類似を言ってくるのは無理筋だ」、逆に「これは明らかに同一/類似の商標ですね」と、専門家であれば容易に答えられるケースもありますが、
商標の類否が非常に微妙な場合は、最終的な判断は訴訟(法定の場)に委ねられることになります。
④反論できないかも…というケースで、取り得る措置があるか?
相手方の商標権が存続していて、あなたの使用がその権利範囲に含まれており、あきらかに「商標が同一または類似」していたとしても、対応策がとれる場合もあります。
まず、何らかの方法で、先方の商標権を「消滅させる」という方策があります。
たとえば、相手方が長期間、登録商標を全く使用していない場合には、「不使用取消審判」によって取り消すことができる場合があります。また、その商標登録に無効理由がある場合も、商標登録「無効審判」によってさかのぼって無効することができる場合もあります。
しかし、これらは最終的な解決までは、それ相当な時間と費用を要しますし、そもそも先方の商標権に「取り消せる理由が、ない」可能性もあります。
ここで、「自分はずっと昔からこの名称を使用している(それこそ通知にある商標登録がされる前から)から、こちらの使用も認められるべきだ!」として、後から登録された商標権に従う必要はないと考えてしまう方もいらっしゃるかもしれません。
確かに、商標法では、後から登録された商標権に対抗できる「先使用権」を認めています(商標法第32条)。
しかし、「先使用権」を主張するには、相手方の商標登録出願の前に、ご自身の商標が周知となっていなければならず、そのハードルが高いので、認められない恐れがあります。
★4.商標権侵害?との警告/通知に対し、取るべき「正しいアクション」とは?
では、これらを踏まえて、通知/警告に対し、「反論する」のか、先方の「要求に従う」のか、「無視する」のか、ですが、結果としては無視できるケースであっても、専門家に全く相談なしで相手方の通知を無視してしまうのは非常に危険です。
といいますのも、上記★1で述べた通り仮に相手方の警告レベル(温度感)が高かった場合に、設定された回答期限を無視して放置し続けることにより、訴訟に発展し、その時の対応経過が原因で、訴訟での裁判官の心証も悪化する恐れがあるからです。
また、上記★3、4についても、ご自身で判断し、反論の回答をした場合も、法的に間違っていた場合にはそのリスクがあります。
したがいまして、このような通知を受け取った場合に、まずは、
知財専門家である弁理士(特に、商標に強い弁理士)にご相談ください。
(もし、普段お付き合いのある顧問の弁護士先生がいらっしゃる場合は、その弁護士の先生にご相談をいただくのがよろしいかと存じます)。
また、そのご相談も回答期限のギリギリですと、適切な対応が間に合わなくなる恐れもありますので、お早目のご相談をおすすめします。
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以上、商標権侵害の通知(警告)を受けた場合について解説をしてきましたが、
大前提として「〇〇」の使用を開始する前に調査をしておけば、このような警告を受けることを回避できますし、その調査の結果、登録可能性があること(=他社の権利がない状態)が確認できれば、その時に出願して商標登録を受けておけば、警告を受けてしまうような商標権が発生することなく、安心して事業を進めることができます。
もし、商品を販売している又はサービスを提供しているけど「この名前、商標登録してないな・・・」といったものがありましたら、商標の専門家である「ONION商標」に、どうぞお気軽にご相談ください。
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