AIについて、特に意識をしていなくても、私たちの生活の中にはAIを利用したサービスがどんどんと普及していっている2024年なのでしょう。

しかし、AIと切っても切り離せないのは、「知的財産権」との関わりです。先日もこういう判決が報道されていました。

◎AI発明、特許認めず 東京地裁「発明者は人間に限定」(日経/共同)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUE170HY0X10C24A5000000/

【裁判の概要】

この裁判の対象になった特許出願は、米国籍の出願人が、「フードコンテナ並びに注意を喚起し誘引する装置及び方法」に関する発明について、「PCT国際出願」(※ひとつの出願願書を条約に従って提出することによって、PCT加盟国であるすべての国に同時に出願したことと同じ効果を与える出願制度)を利用して、加盟国の一つ・日本の特許庁にも出願が移行されたものなのですが、

出願の書類(いわゆる願書)の「発明者」欄に、AIプログラムの名称「DABUS」を指すと思われる、「ダバス、本発明を自律的に発明した人工知能」と記載されていたのだそうです。

後述しますが、特許法(36条1項2号)では、発明者の欄には「自然人(ざっくり言えば、人間のことですね)」を記載することを想定しているので、特許庁はこの出願に対し補正指令を発令した、と。

しかし、出願人はそもそも、AIが自律的に創作した発明について知的財産権による保護を求める国際プロジェクトに基づいて出願しているとのことで、発明者の表示を補正しませんでした。結果、特許庁から下された出願却下の処分に対し、出願人は行政不服審査法による審査請求を行いましたが、認められませんでした。

そこで、出願人(原告)が、東京地方裁判所に提起した、本件(出願却下)処分の取消訴訟..が、上記の記事にある裁判だったのです。

そしてその判決は、「発明者は人間に限られる」とするもので、、米国に住む出願者の請求を棄却するという内容でした。

【まず、手続き的な側面の話しから】

願書への記載方法を定めた、同法36条等(※)では、

願書等に発明者の「氏名」を記載しなければならない

旨を規定されていますが(※特許法第36条第1項(同法第184条の5第1項))、
その記載を見ても、発明者は自然人であることを想定していることがわかります。というのも、

・出願人の表示(同法36条1項1号)については、出願人の「氏名又は名称」を記載しなければならない旨を規定
→氏名(自然人)または名称(法人)を想定しています。
一方で、
発明者の表示(同項2号)については、「氏名」しか規定していません
→氏名、すなわち「自然人のみ」を想定しています。

この違いからも、「氏名」は自然人の氏名、「名称」は法人の名称を指すものと解し、発明者の欄には、発明をした自然人を記載すべきものとして取り扱われているわけです。

【発明者の重要性】

さて、この「発明者」の欄ですが、今回のようなPCT出願の願書であれ、国内での出願の願書(特許願)であれ、とても重要です。そもそも、特許出願をするには、出願にかかる発明について、「特許を受ける権利」を持っていないといけません。

そして、その特許を受ける権利とは、原始的に発明者、つまり「発明(創作行為)を現実に行った者」に与えられる権利とされています(※特許法29条1項柱書。例外として「職務発明」がありますが、それはまた別の機会に)。

この規定も、「発明者は『権利能力を有する者であって出願人になり得る者』として自然人であることを予定している」という解釈をすることが、整合性がとれているというものです。

今回の東京地裁も、特許法についてこうした解釈に沿っていますし、「『発明者』にAIが含まれると解した場合の不都合性」や、他国の状況(PCT出願により他国にも出願されていますが、「発明者」に直ちにAIが含まれると解することには慎重な国が多い状況です)等も検討した結果の、請求棄却判決となったものです。

【判決に含まれた「提言」とは?】

しかし、今回の判決では、併せて、非常に重要な提言もされています:

・現行法の解釈では「AIがもたらす社会経済構造の変化を踏まえた的確な結論を導き得ない」
・AIに関する制度設計は「国民的議論による民主主義的なプロセスに委ねることが相当」

とも言及したのです。

実は今回の判決では、「知的財産基本法」の規定の解釈も検討しているのですが、

知的財産基本法2条1項を引用すると(※赤字は弊所)、

第二条 この法律で「知的財産」とは、発明、考案、植物の新品種、意匠、著作物その他の人間の創造的活動により生み出されるもの(発見又は解明がされた自然の法則又は現象であって、産業上の利用可能性があるものを含む。)、商標、商号その他事業活動に用いられる商品又は役務を表示するもの及び営業秘密その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報をいう。

と定義しているんですね。まさに文言どおり、AI発明を想定していなかったわけです。

【著作物と著作者はどう考える?】

ところで、上述の条文どおり、知的財産としては「著作物」も入ってきますし、それも「人間の想像的活動により生み出されるもの」=つまり、著作者は人間(著作者)のみを想定?していることになりますよね。

著作権法も見てみると、著作物の大原則として、以下の規定があります:

(2条1項1号) 著作物 思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。

これに対し、文化庁が令和5年に行ったセミナー(及びテキスト)「AIと著作権」でも、
https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/93903601.html

・「AIが自律的に生成したものは、『思想又は感情を創作的に表現したもの』ではなく、著作物に該当しないと考えられます。」

と述べられています。一方で、

・「人が思想感情を創作的に表現するための『道具』としてAIを使用したものと認められれば、著作物に該当し、AI利用者が著作者となると考えられます。」

(※著作権審議会 第9小委員会(コンピュータ創作物関係)報告書)

とも解釈されています。

今回の判決では、明らかに「発明者がAI」と記載され、特許の対象とされなかったわけですが、「『AIを道具として使用した発明』だったらどうなのか」
また特許/発明にしても、著作権/著作物にしても、「どのように使用すれば、AIを道具として使っ(て発明・創作し)たことになるのか」は、今後も研究・検討の余地が多いにあるのでしょうし、「ケースバイケース」(と判例の積み重ね)が必要になってくるのでしょうね…。

法の整備が先か、AIの進化・浸透が先か、どちらにも意識を向けながら過ごしていくことになりそうです。

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲
好評です! ONION商標の新サービス
ロゴ作成+商標登録 =「ロゴトアール®」
https://logoto-r.com/

ロゴ作成から商標登録完了まで、弁理士が一括サポート。
いいロゴに®もつけましょう!
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲