ONION商標では、商標権のみならず、さまざまな知的財産権に関するテキストを投稿してきましたが、まだ触れていない権利に関する、こんなニュースがありました。

◎高級イチゴ苗のフリマアプリ無断販売 警視庁 種苗法違反容疑で摘発(日本農業新聞)
https://www.agrinews.co.jp/news/index/274851

子供のころ(※筆者でいうと70年代・80年代)に比べ、「この果物、甘くなったなぁ」とか、「この野菜、こんなにおいしかったっけ?」「こんな地域でこんなにおいしいお米が取れるんだ!」と感じることがかなり多い気がします。さまざまな努力と苦労、研究により、新品種の創出がなされてきたのだと思います。

そのように、新たに植物品種を育成した者に対して、

「育成者権」

というものが与えられます。これもまた、特許権や著作権と同様に、「知的財産権」の一種と言えますね。

では、登場する言葉や、制度の概要をまとめてみたいのですが、

*育成者権を定めるのが「種苗法」という法律です。

*育成者権を得るためには、国に出願する必要があります。

出願という手続きを経て権利が発生するのは、産業財産権(特許権、実用新案権、意匠権、商標権)と同じですが、これらの窓口が特許庁であるのに対し、育成者権は「農林水産省」が窓口になります。

*出願→審査を経て、「品種登録」されると、出願人に「育成者権」が発生します。

これは、商標登録されると、出願人に商標権が発生するのと似ていますね。

*育成者権の存続期間は、登録日から25年(果樹、材木、鑑賞樹等の木本性植物の場合は30年)です。

(※ちなみに、意匠権は「出願から」25年です)。

では、「育成者権」で育成者の何が保護されるのかというと、

*育成者権により、登録品種の「種苗」、「収穫物」「加工品」を、業として利用する権利を専有することができるのです。

優良な新品種を用いて生産された農産物は高値で取引されることも多く、そのため無断栽培や海外流出のリスクも高くなります。新品種の価値を維持するためには、品種登録を行い知的財産として保護することが重要ですよね。

具体的に言えば、「育成者権」の権利者は、その品種登録を利用して、種苗を「増殖させてください」という事業者に対し、権利を許諾する(代わりに利用料を得る)こともできますし、

無断で利用している者、つまり、育成者権を「侵害」している者に対し、権利行使することもできます(差止請求、損害賠償請求、信用回復措置請求等…これは例えば「特許権侵害」に対して行使できる請求と同様です)。

また、今回のニュースのように、育成者権侵害は「刑事罰」の対象でもあります。懲役または罰金(あるいはその併科が可能)が科せられうるわけです。

育成者権侵害!?何がアウトで、何がセーフか

ここで、「何が侵害で、何がセーフなのか」、簡単な例を挙げておきますと、

・正規購入した登録品種の種苗(※「登録品種」「PVPマーク」などの表示があるはずです)を個人の趣味や家庭菜園で栽培することは、問題ありません。

・では、農家の人などが、正規購入した登録品種の種苗を栽培した結果、収穫できた農作物等を販売することは…これもOKです。

・しかし、品種登録された種苗を、正規購入し栽培したとしても、その収穫物の一部を使って、新たに栽培すること(いわゆる「自家増殖」※)は、令和4年4月1日以降の法改正で、アウト(権利侵害)となりました

(※このような増殖をするには、育成権者の許諾が必要です)。

そう考えると、今回のニュースになったような、

・品種登録の種苗を育て、その収穫物を第三者に(フリマアプリで)販売する = 完全アウト(明らかな育成者権侵害)

ということになります。それでは、

・そのような違法に販売されている種苗を購入することは?

もしそれが、侵害品とは知らずに購入する行為は育成者権の侵害にはなりません。しかし、購入後の利用行為は侵害となり得ますし、そうした侵害品は、なんらかのウィルスを罹病している可能性もあり、育成者権侵害の観点以外にも、あまりにリスクが高いといえるでしょう。

「フリマアプリで販売されている」「ブランドになっている果物等の苗なのに、品種登録の表示が明らかでない」ような販売であれば、侵害品の可能性はかなり高い

わけですから、購入を控える、販売者にしっかり確認する、といった防衛策が求められるでしょう。

さて、上記のとおり「育成者権」は、種苗の育成・開発にかけた長い年月とコストを、種苗を販売する際に得る許諾料や種苗を増殖する事業者から得る許諾料によって投資したコストを回収し、次の品種開発に再投資できるようにすることを目的としていますが、

人気となった種苗(から収穫される農作物等)のブランドを守るには、今度は「商標権」の出番

となります。
注意点としては、「商標登録」する名称は、「品種登録」の名称と同一又は類似だと、(その品種を対象にした指定商品や、その品種を扱う小売等役務の範囲等では)登録が認められないという点です(商標法4条1項14号の拒絶理由)。またその逆で、種苗又はこれと類似の商品に関する役務についての登録商標と同一又は類似の品種名称は登録が認められません(種苗法4条1項2号~4号)。

こう聞くと、「商標登録と品種登録、どちらを重視すべきか?(どちらを先に行うか?)」という問題と捉えられる方もいらっしゃるかもしれませんが、それぞれの登録制度の目的の相違:

・「登録品種名」はその登録品種と他の品種を識別するもの

・「登録商標」は商標権者が販売する商品等と他人の商品等を識別するためのもの

という役割を正しく捉えれば、それぞれの制度で登録する名称は、それぞれの目的に応じた「正解のネーミング」があるはず、つまり戦略的にも異なって当然であるともいえますね。
(例えば、有名な例を一つ上げれば、人気の柑橘系果物の、登録品種名は「不知火」ですが、その登録商標が「でこぽん」だったりします)。

ONION商標は、商標を最も得意な専門とする弁理士事務所ですので、この「商標登録と品種登録の交錯」については、商標サイドからのコンサルティングになりますが、制度のわかりやすい説明、事業者様への丁寧なヒアリングと、それにもとづいたご提案というコンサルティングが可能です。お気軽にご相談ください。

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