今回ご紹介するのは、この連載でも、最も「コワイ」ケースかもしれません。

「商標登録が認めらない商標」については、商標法3条・4条に拒絶理由が定められているのですが、いわゆる“早い者勝ち”の観点(同法4条1項11号)と並んでメインとなるのが、“一般的・記述的商標か否か”(同法3条1項各号)という観点です。これは、商標を使用する商品等の「普通名称」だったり、商品の品質等を示しているだけの、識別力がない商標のことを指します。たとえば、指定商品「りんご」に、商標「APPLE」とか、商標「青森産」とか、商標「赤い果物」といったものは、他の商標と”区別”できる、目印となれる力がない商標だから、誰にも登録を認めないことになっているのです(もし、特定の誰かに認めてしまったら、不公平ですよね)。

そこで、一般的・記述的商標となるかどうか、きわどい商標について「仮に、同法3条1項各号該当の拒絶理由を受領したら、登録を認められないにしても、他者に登録されることもないことがはっきりするので」という理由で、チャレンジ的に出願することを希望されるお客様がいらっしゃいます。

しかし、その「一般的・記述的商標」該当という理由で拒絶となってあきらめた商標が、後に他者に登録されてしまった、という出来事が数年前に起きたのです。知財・商標の世界では、「音楽マンション事件」といわれている事例です。

かいつまんで説明しますと、2002年、安心して楽器が演奏できるよう、防音がほどこされているマンションの賃貸などを行っているA社が、第36類の指定役務「マンションの貸与」等を指定して、商標「音楽マンション」を出願しました。まだ誰も同一又は類似の商標を出願していなかったので、「先願」です。しかしながら、特許庁は、「音楽の演奏が可能なマンション」のキャッチフレーズ的意味合いを認識させるに止まるものであるから、いわゆる識別力なし(商標法第3条第1項第6号等)という拒絶理由を通知しました。A社は、「マンションの品質に係るものではない」等と反論する主張をした意見書を提出したものの、その主張が認められず、拒絶査定が確定しました。残念だったでしょうが、おそらく「自分たちの登録を認められないにしても、他者に登録されることもないことが、はっきりしたよね」と思ったことでしょう。

しかし、驚くことに、2014年になって、B社による商標「音楽マンション」が、同じ36類の範囲で商標登録を認められたのです(拒絶理由通知は受領したものの、意見書で反論した結果、拒絶理由は解消され、登録査定)。A社は当然納得がいかなかったでしょう。いや、それどころか、放置しておけば、A社は「音楽マンション」という名称を使用しているので、商標権侵害にもなってしまいます。

そこでA社は、「B社の商標登録は『(一般的・記述的商標該当で)本来、拒絶されるべきなのに、審査の誤りで登録された』という無効理由がある」ということで、登録の取り消しを求める「無効審判」を請求します。しかし、特許庁による審決は「B社の登録維持」。A社は、この審決の取り消しを求める「審決取消訴訟」を提起しますが、知財高裁の判決(平成28年(行ケ)10191号)も、B社側の勝訴。さらには、A社による最高裁への上告も棄却され、B社の、商標登録を維持するという判決が確定したのです。

その内容とは、このようなものでした…

A社(原告)は、「『音楽マンション』につき,特許庁は過去において拒絶査定をしたにもかかわらず,本件商標を登録査定したのは,平等原則,禁反言の原則,信義則にそれぞれ違反する」と主張したところ、

裁判所(知財高裁)は、「『音楽マンション』という文字は,本件商標の指定役務において,特定の役務を示すものとはいえず,需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができないものとはいえないから,本件商標は,商標法3条1項6号に該当するものとは認められない。」…ここは、B社に商標登録を認めた特許庁の審査をフォローする内容ですね。

「そうすると、(A社に対してなされた)拒絶査定は,どのような資料に基づいて判断されたかは必ずしも明確でないものの,商標法3条1項6号該当性についての判断に誤りがあるものといわざるを得ないから,これに対する不服審判請求に係る審決等において取り消されるべきものと解される。」…つまり、先に出願したA社の特許庁による審査(拒絶査定)も、おかしかった、と。

「それにもかかわらず,原告は,不服審判請求をするなどして正しい判断を求めなかったのであるから,原告の主張は,失当であるというほかない。」
…つまり、拒絶査定に不服がある場合は、拒絶査定不服審判を請求して、正しく主張すれば、A社の登録は認められただろうに、その機会を活かさなかったA社がいけない、という結論だったのです。

ONION商標の弁理士としては、これはA社がかわいそうだなと感じます。なぜなら、拒絶理由通知に対し、A社は全く反論せずに「これで誰も登録は認められないな」と判断したのではなく、意見書により反論を試みているからです。その反論が認められなかった場合、拒絶査定不服審判を請求するには費用もかかりますし、断念せざるを得ないケースもあるからです。

このような事態に直面しないためには、どのような対応が考えられるでしょうか。あくまで一般論ですが、

①「一般的・記述的商標」該当という拒絶理由通知を受領したら、それが商標法・商標審査基準・過去の審査例に照らし合わせ、妥当なものか、弁理士と十分に検討する。
②「妥当ではない(失当)」と判断した場合は、中間対応(意見書による反論)は試みるべき。この場合も、経験対応な、商標専門の弁理士に依頼すべき。
③反論が認められず、拒絶査定となった場合、(ご自身が納得いかれないだけでなく)弁理士からみてもやはり失当である可能性が示唆された場合は、「拒絶査定不服審判」の請求を検討する。

ということになるでしょう。

審査は一人の審査官で行うのに対し、不服審判であれば3人の審判官による合議となりますので、より公平で合理的な判断(審決)が下される可能性が高いのです。
(さらに、審決に不満がある場合は、「審決取消訴訟」へと進むことができます)。

もちろん、確実に商標登録をして、商標権を得た上で商標を使用するためには、「一般的・記述的商標(識別力がない商標)」に該当する恐れがある場合は、ロゴマークなど「識別力」のある部分と組み合わせた図形商標として、出願することをお勧めしています。

ONION商標の弁理士は、中間対応や審判請求における”説得力のある反論”の研鑽も続ける一方で、まずはご依頼時のお客様への丁寧なヒアリングから、お客様にとって最適な道筋をアドバイスをさせていただきます。