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◎(知財)「マリカー」訴訟、賠償増額 知財高裁、使用会社に命令(東京新聞)https://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2020012901001707.html

この「マリカー」をめぐる訴訟ですが、かなり長い期間を要しました。ここで、ざっくりとここまでの流れとポイントを整理してみたいと思います。

【前提】
レンタル会社「マリカー」(現・MARIモビリティ開発)社が提供していた、公道を走れるカートを貸し出すサービスですが、併せて、任天堂のゲームのキャラクターのコスプレができる衣装も貸し出されていました。ゲーム「マリオカート」を、実写版的に体験できる、しかもそのゲームの本場である日本で、ということで外国人観光客にとても人気になったんですね。
しかし、このサービスは任天堂に対して無断で行われていたものでした。

【第一段階:商標権について】
レンタル会社は、「マリカー」という名前を、商標登録していたんです(登録5860284号等)。
それに対して任天堂は、登録の取り消しを求める異議申し立てをしました。実は、登録されるべきでない商標登録については、特許庁に異議申し立てと言うものを誰でもすることができます(登録が公報というもので公開になってから2カ月間だけ)。

「任天堂の商品(マリオカート)と、『マリカー』という商標は、混同を生ずるおそれがある→そういう商標の登録を認めない商標法4条1項15号に反して、誤って登録されたものなので、商標登録は取り消されるべき」という申し立てです。

しかし、特許庁の判断は、申し立てを認めませんでした。「『マリカー』っていうのはマリオカートの略称としては有名じゃないでしょ。だから、混同することはないよ」という考え方です。したがって、レンタル会社の商標登録(商標権)は維持されることになりました。

【第二段階:著作権侵害・不正競争行為として訴え@東京地裁】
任天堂の訴え(差止と損害賠償)の論拠をざっくりまとめますと、

  • 「マリオカート」の略称である「マリカー」という標章をその会社名等として使用(不正競争)
  • 「マリオ」等の著名なキャラクターのコスチュームを貸与(著作権侵害)
  • コスチュームが写った画像や映像を当社の許諾を得ることなく宣伝・営業に利用(著作権侵害)

この訴訟では、「不正競争行為」については任天堂が主張が概ね認められました

  • マリカー標章の使用差止め(一部例外あり)
  • マリオ、ルイージ、ヨッシー、クッパのコスチュームの使用差止
  • 一部の宣伝動画の廃棄
  • 「maricar」を含むドメイン名の一部使用差止め(一部例外あり)
  • 損害賠償支払 (この段階では約1,000万円)

「マリカー」という名称が、任天堂の登録商標ではないけれども、少なくとも日本人の間では、周知な「商品等表示」として認められた→他人の周知な商品等表示を使用して、混同を生じさせると、不正競争行為になるんですね(不正競争防止法2条1項1号)。

一方、この訴訟では、著作権に関する訴えについては、認められませんでした。その理由を要約すると、

マリオカートの中に登場するキャラはもちろん任天堂の著作物ですが、それをコスチュームにすることも(著作権の)複製権侵害だというのが任天堂の主張。それに対し判決では「それは求めすぎ。不正競争防止法違反で、コスチュームの貸し出しを差し止めたんだから、もういいでしょ」みたいな印象の判決でした。

【第三段階:知財高裁へ】
概ね任天堂の勝訴となった地裁判決に対し、レンタル会社は不服として控訴、任天堂も部分的に不服な点が残るとして控訴し、舞台は知財高裁へと舞台が移っていった(→今回のニュースに至る)わけですが、ここでもざっくりポイントをいえば、

 ①不正競争行為について、地裁では任天堂の主張が認められなかった部分について、認められた。  
 ②損害賠償額が増えた(5,000万円に)  
 ③そもそも、著作権侵害に関しては、任天堂も控訴していない

となります。①・②は、任天堂が、万全を期したというか、納得のいくところまでやったという感じですが、ここであらためて触れておきたいのは③です。今回の一連の「マリカー」訴訟では、著作権侵害については明確に判断されていないということです。

【まとめ:「マリカー訴訟」から言えること】
トピックとしてはキャッチーでしたが、いろいろな要素がからみあった「マリカー」訴訟。ここから学べることを、箇条書きでまとめてみます。

 ⑴商標権を取得したからといって、その登録商標を使用するビジネスの正当性が担保されるわけではない

 ⑵他社のコンテンツ・所有物が関わってくるビジネスの場合は特に、他の法律にも気をつける→今回の具体的なケースとして、「ゲームメーカーに無断で、有名なゲームキャラクターの略称や愛称を宣伝に使ったり、そのキャラクターのコスチュームを貸し出すような事業」は、不正競争防止法にあたる可能性が大である。

⑶今回の判決は、「コスプレが著作権侵害になる」と判じたものではない→ましてや、個人レベルのコスプレが著作権侵害となるかのように、今回の判決を拡大解釈しないこと

という感じでしょうか。
「コスプレの著作権」問題については、曖昧なままになってしまいましたが、あまり「侵害!」とはっきりさせると、すごく市民権を得ている「コスプレ」という行為や関連イベントをを委縮させちゃうので、東京地裁の裁判官も曖昧なままにしておきたかった?というのもあるかもしれませんね。