ビジネスの場面においては、事業の譲渡や売却、グループ会社の組織再編、会社の吸収合併などにより「事業の主体(運営会社等)が変わる」ことはよくあることですが、

・譲渡等の事業主体が変更になる事業の名称等に、商標権が存在していた場合

・吸収合併される会社が商標権を保有していた場合

譲渡先・合併先に自動的に商標権が引き継がれるものではなく、「特許庁に対して移転の手続き」が、別途必要となります。

移転の手続きを行うことで、譲受人は商標権者となることができ、安心してその事業を続けることができます。以下、手続き等について具体的に説明していきます。

(1)移転登録申請と登録免許税について

特許庁に対し、商標権の譲渡等を申請するには、対象となる商標権の登録番号と、譲渡人、譲受人双方の情報を記載した『移転登録申請書』を提出します。

また、移転登録申請には、登録免許税(申請書に収入印紙を貼付)が必要です。

登録免許税は、

*会社合併や相続等の一般承継の場合は、商標登録1件あたり3,000円

*それ以外の譲渡の場合は、商標登録1件あたり30,000円

となっています。

(2)譲渡・移転の証明について

これは譲渡や、移転の要因によって、必要となる書面が異なりますので、以下「3つ」のケース別にご紹介します。

ケース①:商標権譲渡の場合→譲渡証書

事業の譲渡や売却に伴い商標権を譲渡する場合は、商標権を譲り渡したことを証明する書類として『譲渡証書』を作成し、一緒に提出します。
譲渡証書には、実印の押印が必要です。

なお、従来(令和7年3月31日まで)は、本人確認のための「印鑑証明書」の提出も必要でしたが、現在(令和7年4月1日移行)は、押印された実印に関して合理的疑義が無い限り、実印である旨の宣誓を行うことにより、原則提出は不要です。

また、商標権を始めとした無体財産権の譲渡等に関する契約の文章には、印紙税の納税が必要であり、譲渡証書に貼り付ける収入印紙の額は、商標権譲渡の対価の額(契約金額)により変わってきます。

(参考)印紙税/産業財産権関係の抜粋
https://www.jpo.go.jp/system/process/toroku/iten/inshizei_bassui.html

ケース②:会社合併の場合→商業登記法に規定する会社法人等番号

会社合併による一般承継の場合は、申請書に商業登記法に規定する会社法人等番号をそれぞれ記載することで、会社合併に伴う移転を証明します。

ケース③:相続の場合→法務局が発行した「法定相続情報一覧図」の謄本

商標権者が亡くなられたことによる相続の場合は、死亡の事実及び法定相続人であることを証明する書面の提出が必要です。
法務局が発行した「法定相続情報一覧図」の謄本 又は「戸籍謄本等」を提出します。

なお、相続の形態によっては、遺産分割協議書、相続放棄の受理証明書、特別受益者の証明書(相続分不存在証明証書)の提出が必要となる場合もあります。

(3)移転登録申請における利益相反行為について

会社法第356条等に定める取締役と会社間の取引制限を「利益相反行為」といいます。具体的には、取締役が自己の利益を得、その会社が不利益を被るような取引(自己取引)を行う場合に問題となります。これはどういうことでしょうか…?

例えば、譲渡人の会社と譲受人の会社の代表取締役が同一人の場合には、利益相反行為が問題となるため、それぞれの会社の株主総会等の承認が必要となります。また、法人の性質により必要となる書面は変わってきます。

(参考)移転登録申請における利益相反行為について
https://www.jpo.go.jp/system/process/toroku/iten/sonota/rieki_souhan.html

(4)移転登録申請後の流れ

登録免許税や必要書面をそろえて、特許庁に「移転登録申請書」を提出します。
その後、特許庁担当部署にて方式審査がなされ、無事通過した場合は、特許庁に備える登録原簿に移転の内容が登録されます。

移転登録完了後は、特許庁より「移転登録済通知書」という書面が発行されます。

(5)商標登録証はどうなるの?

移転登録完了後も、新しい名義人による商標登録証は発行されません。特許庁に対して、商標登録証の再交付の手続きをした場合も商標登録時(当初の)情報で再交付されます。
そのため「登録事項の閲覧請求」(特許庁実費600円)を行い、移転後の登録原簿の写しを商標登録証とともに保管いただくことをお勧めしています。

(6)商標権譲渡手続きを行わずに会社を「閉じる」とどうなるか?

譲渡を忘れていてトラブルになるケースとしては、

「事業の主体を変更して事業を継続しているにも関わらず、商標権の譲渡手続きを忘れたまま前の事業主体の法人登記を閉鎖してしまった」

というものがあります。

この場合、精算決了した会社に残っている商標権を他人に譲渡するには、
・清算結了して閉鎖されている登記簿を復活させ清算手続きを再開し、
・清算人にて譲渡証書を作成し、譲渡手続きを行う

…という必要があります(清算結了後に残っている不動産や、預金等の財産が見つかった場合と同じ対応になります)…
が! 上記手続きは現実的ではないですよね。したがって、

「商標権の譲渡手続きを忘れたまま前の事業主体の法人登記を閉鎖してしまうと、事実上譲渡ができなくなる」

こととなります。

変更後の事業主体で商標権を保有するには、再度、出願手続きが必要となりますが、仮に会社が消滅しても存続期間が満了するまでは、先願引例としてその新たな出願は拒絶されてしまいますので、存続期間満了をまって改めて出願することしかできず、その間は新しい事業主体による商標権の行使もできない、非常に苦しい状況となります。

このように、商標権は重要な無形資産ですので、事業譲渡、組織再編、会社合併等の理由により事業の主体が変わる場合は、忘れずに移転申請を行い、維持・活用していくことがとても大切です。

ONION商標では、商標登録で終わりではなく、その先の場面でも、経験・知見をもってコンサルティングさせていただきます。ぜひお気軽にご相談ください。