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◎(著作権)音楽教室、著作権料で敗訴 JASRACに徴収権限
https://www.sanspo.com/geino/news/20200228/sot20022814130023-n1.html
2017年から、JASRAC(一般社団法人日本音楽著作権協会)と音楽教室側(「音楽教室を守る会」の会員251社)で、「音楽教室に対する著作権使用料請求が認められるかどうか?」を争っているわけですが、ここでは今回の東京地裁の判決に対する評価はなるべく避け、今回の話題をより理解していただくために、裁判の背景にある著作権法や、過去の判決(判例)を、ざっくりとご紹介してみたいと思います。
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【今回の訴訟の種類は?】
JASRACからの「音楽教室に対する著作権使用料の請求」を音楽教室側が拒み、その使用料を支払わない場合でも、問題ない ー つまり(その場合でも)JASRACには「著作権侵害に基づく損害賠償請求権又は不当利得返還請求権」がないこと(不存在確認)を求めて、音楽教室側が訴えを提起したものです。
ちなみに、JASRACが音楽教室側に求めている使用料は「年額受講料収入の2.5%」とのことです。
【著作者・著作権とJASRACの関係】
曲は音楽の「著作物」です。作詞者・作曲者は、その曲の「著作者」のまま、自身の「著作権」を他者に譲渡することができます。音楽業界では一般的に、契約する「音楽出版社」に譲渡され、さらに著作物の使用料の徴取等を「著作権管理事業者」に委ねます。
また、ひとくちに「著作権」といっても、「複製権」「公衆送信権」など、いくつかの「〇〇権」を束ねたような概念です。なかでも、音楽の著作物にとって重要なのが「演奏権」です。音楽の著作権管理事業者は、JASRAC以外にも「NexTone」がありますが、後者は演奏権の管理を現状では請け負っていませんので、この権利についてはJASRACに委ねるほかありません。この場合、演奏権等の著作権は、音楽出版社からJASRACに(信託)譲渡されます。
【演奏権とは?そのポイント】
著作権法22条には、以下のとおり定められています。
(上演権及び演奏権)
第二十二条 著作者は、その著作物を、公衆に直接見せ又は聞かせることを目的として(以下「公に」という。)上演し、又は演奏する権利を専有する。
音楽の著作物の場合は、上演ではなく、演奏する権利となります。演奏というと、楽器をつかって曲を奏でるイメージがありますが、曲を「歌う」のも、あるいは録音されたCDや音源データなどを「かける」のも、演奏です。
著作権者以外の者がこれらを行う場合には著作権者(JASRAC)の許諾が必要となってきます。なお、JASRACは、既定の使用料を支払えば、誰にでも許諾することになっています。
【演奏の主体(演奏しているのは誰か)と「カラオケ法理」】
たとえば、カラオケ(バー、ボックス、パブ等)なら、実際に演奏(歌唱)しているのは、そのお客さんだったりします。しかし、こうしたお客さんが「演奏権」使用料を支払ってくれない場合、すべてのお客さんを追いかけるのは実質的には難しいですね。
実際、その点を判断した有名な最高裁判例「クラブ・キャッツアイ事件」というのがあります(最判S63年3月15日)。カラオケ装置等を備え置き、お客さんが歌うことを勧めることで店の雰囲気づくりをし、集客をして利益を得ていた「スナック経営者」が、歌唱の主体として演奏権侵害であるとされたものです。
この「客の演奏を管理し、営業上の利益を得ているものが『演奏の主体』」とする考え方は、「カラオケ法理」とよばれ、その後も多くの判決で踏襲されています。
今回の音楽教室のケースでも、実際に演奏しているのは講師・生徒だとしても、その演奏を管理し、営業上の利益を得ているのは音楽教室だとして、音楽教室が「演奏の主体」という判断がなされています。
【公衆とは?】
演奏権で議論とよくなるのが、「公衆」の考え方です。
第二条5項
この法律にいう「公衆」には、特定かつ多数の者を含むものとする。
と定められていて、これはどう理解するかというと、「不特定であれば、多数はもちろん、少数でも『公衆』」「特定の場合は、多数のときのみ『公衆』(※たとえば、出席者が決まっている大規模な会議などをイメージしてください)」ということになります。つまり「特定の少数」に対して演奏しても、それは公衆ではないので、演奏権の利用とはならないということです。
音楽教室は、それほど大勢の前で演奏するものではないので、この定義にあてはめると、「公衆」に演奏しているのではないようにも感じられます。
一方、過去に似たようなケースで、「小規模な社交ダンス教室(※JASRACの管理楽曲を、CD等で演奏しながら、ダンスを指導していた)」に関する裁判(名古屋高裁H16年3月4日)では、たとえ教室等の物理的な理由で、一度に指導する生徒が少人数(や個人レッスン)だとしても、「特別な条件を設定することなく受講生を募集していて、希望する者は、入会金を支払えば誰でも受講生の資格を得られる→このような受講生に対する社交ダンス指導に不可欠な音楽著作物の再生は、組織的、継続的に行われるもの→すなわち、公衆に対するもの」という趣旨の判決が下されていました。
【公衆に「直接聞かせる目的で」の演奏?】
もうひとつ、演奏権では、その公衆に対して「直接見せ又は聞かせることを目的として」という要件があります。極端な例ですが、たとえば家の中で一人で演奏していて、その音が家の外に漏れて、公衆に聞かれてしまったとしても、それは「聞かせることを目的として」演奏しているわけではないので、やはり演奏権の利用とはならない、と考えられます。
今回の判決でも、「『聞かせることを目的』とする要件は、家庭内での演奏など、公衆が存在せず、外形的・客観的にみて公衆に聞かせる目的があるとは考えられない状況下での演奏等を除外する趣旨で設けられたもの」→「このため、『聞かせることを目的』とするかどうかは、外形的・客観的にみて公衆に聞かせる目的意思が存在するかどうかにより決するのが相当」とされました。そして、音楽教室側の演奏利用は、聞かせる目的があると判断しています。
【補足:通常の学校での「演奏」は?】
JASRACが、演奏権の利用に基づく、使用料の徴収先を拡大している(2011年4月~フィットネスクラブ、2012年4月~カルチャーセンター、2015年4月~ダンス教室、2016年4月~カラオケ教室や歌謡教室など)ことから、「今後は、学校で合唱コンクールからも徴収するようになるのでは?」というようなツイートを見かけたりします。しかし、結論からいうと、このようなことはありません。
著作権法では、「こういう場合だけは、(形式的には著作権の利用にあたるけど、)著作(権)者の権利を制限するので、自由に利用していいよ」というケースを既定しています。これが「制限規定」といわれるものです(著作権法30条~50条)。
その一つに、「営利を目的としない上演等(第38条)」が挙げられており、その第1項では、「営利を目的とせず,観客から料金をとらない場合は,公表された著作物を上演・演奏・上映・口述することができる。」とあります。つまり、学校での授業での利用や、合唱コンクール、部活での「演奏」などは、ここに合致しますから、たとえ演奏権の利用だとしても、権利者(JASRAC)の権利が制限され、自由に無料で利用できることとなります。
JASRACは、音楽の著作権の管理については、圧倒的な地位にありますが、その根拠はやはり「著作権法」となります。著作権を「超えて」使用料の徴収をすることはできませんし、今回のような裁判でも、著作権(法)の解釈について争われていることをご理解ください。
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音楽教室側は、今回の東京地裁判決を不服として、知財高裁に4日付で控訴しました。音楽の演奏は、音楽業界に携わる方でなくても、非常に身近な行為と考えます。正しい知識をもとに、各自がご意見を持ちつつ、今後の展開に注目いただければ幸いです。
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