手続きを経て商標登録をしたら、もう安心。その登録商標についての商標権は、10年ごとに更新すれば(半)永久的に維持できる…原則的には、そのご理解で間違っていません。しかしながら、商標とその管理次第では、商標登録が無効・消滅になっているわけでもないのに、実質的に効力がないものとなってしまうことがあります。ある意味、このコラムのタイトル「コワイ」に、こんなにふさわしい事態はありません。それが、商標の「普通名称化」というものです。

どういうケースかというと、その登録商標(主に文字商標です)が、その商品「自体」を示すものとして多くの人に使用された結果、“商標権者の商品ですよ”という目印となる力=いわゆる「識別力」が弱まり、商品の出所を表す商標としてではなく、一定の商品を示すものとして認識されるようになってしまうことです。

もう少し、具体的に書かないとわかりづらいですね。例えば、駅やデパートなどで、「歩かないでも階段のほうが動いてくれて、上り下りできる階段」のことを、皆さんは何といいますか?「エスカレーター」ですよね。つまり、あの”動く階段”という商品の普通名称は、「エスカレーター(escalator)」なわけです。しかし、この「エスカレーター」、元々アメリカでは、オーチス社の登録商標だったのです(※1950年代に権利放棄により消滅済)。

この恐ろしい「普通名称化」という事態は、どのような場合に起きやすいのかというと、「それまでなかった、先駆的な商品」が要注意と言われています。なぜなら、その商品を指し示す普通名称が存在しないので、いきおい、その商品を説明しようとすると、その(商品の名称となっている)登録商標で呼んでしまうわけです。そして、そのような状況を放置しながら、その商品がどんどん世の中に普及するにつれ、せっかく有名になった商品の名称=登録商標は、登録時には有していた識別力が弱まったり、失ってしまうわけです(「エスカレーター」も、1900年頃に発明されたときは、先駆的な商品の商標名だったわけですね)。

では、普通名称化してしまうと、何が不都合なのでしょうか。冒頭でも述べたように、登録商標が無効・取消になってしまうことはありません。

しかしながら、第三者が登録商標と同一の商標を、同一の(指定)商品に使用していたとしても、権利行使(差止等)ができません。商標法26条に「普通名称には、商標権の効力は及ばない」と既定されているためです。商標を独占的に使用できないのでは、登録商標の価値はないも同然ですよね。

では、この恐ろしい「普通名称化」を避けるにはどうすればいいのでしょうか? まず、
Ⓡマークを付したり、(商品パッケージやウェブサイトなどで)「〇〇はxx社の登録商標です」という表記を付すなどして、「自社の登録商標であることをアピールする」というのは大前提になります。

次に、商品が順調に有名になり、ライバル企業が出てきたときに、登録商標を使用しているケースを発見したら、しっかりと警告等をしていくことも重要です。

ただ、これらは、普通名称化防止のためだけではなく、どの登録商標についても、そのブランド保護の観点から心がけるべき行為になります。

「普通名称化」で恐ろしいのは、例えばマスメディアなどでその商品が取り上げられ、世の中の人が、その(先駆的な)商品を、登録商標名で呼ぶようになってしまうときです。商品のプロモーション上は効果的なメディア露出ですが、その場合は、貴社の登録商標名と、その商品の「普通名称」を、しっかりと伝えて取り上げてもらうことが重要でしょう(「味の素」という商品が生まれたとき、テレビの料理番組で、「味の素を少々」などと紹介されることがあったそうですが、同社はそれが登録商標であることを伝え、普通名称である「化学調味料(※現在はうま味調味料ですか)」と紹介してほしいと逐一訴えていたと、聞いたことがあります)。

「うちの会社はメーカーじゃないし、先駆的な商品なんて開発していない、サービス業だから関係ないな」なんて思わないでください。今までの文章の「商品」という文字を、「サービス」(役務)と置き換えたら、貴社のサービス名の登録商標も、そのリスクに直面しているかもしれません。画期的なサービスについて、その内容と関連する商標名を、いいタイミングで商標登録できたものの、同様のサービスを提供するライバルが増えてきたなと感じたら…ぜひ、上記の「普通名称化」の予防策に取り組んでいただきたいと思います。