商標登録は、原則「早い者勝ち」ということは、このメルマガでも何回か触れてきたと思います。つまり、同一又は類似する商標を、先に誰かに出願・登録されてしまっていたら、もうその商標を登録することはできないということですね。
そのような「先願先登録商標」の有無を調べるために、私達弁理士も利用しているのが、
特許庁の検索サイト「J-PlatPat」(特許情報プラットフォーム)です。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/
J-PlatPatには「簡易検索」という機能もあるので、それらを利用して、「何も見つからなかったから、商標登録できますよね!?」というお問合せをいただくこともございます。
ここはすぐ「はい!」とお答えしたいところですが、弁理士としては「調査、検討にお時間をいただけますか?」とお答えするしかないのです。どうしてなのでしょうか。
★1.「誰もまだ登録していない商標」なのではなく、「誰も登録『できない』商標」かもしれません
「やったー!先願先登録商標がないから、自分が出願すれば、商標登録されるはずだぞ!!」と思われるその名称、もしかすると、そもそも「商標登録ができない名称」である場合があるのです(←つまり、誰も登録ができていないから、先願先登録がなかったというケース)。
商標法では、商標法3条1項1号〜5号というというところに「こんな商標は、登録が認められません!」という類型を挙げています:
- 1号→(指定する商品等の)普通名称
- 2号→(指定する商品等の)慣用商標
- 3号→(指定する商品等の)記述的商標
- 4号→ありふれた氏又は名称のみ
- 5号→極めて簡単で、かつ、ありふれた標章のみ
これらはいずれも、
「他人の商品・役務と区別することができないもの(識別力のないもの)」
なのです。商標は、商品やサービスの“目印”として使うものなので、識別力がないものは“目印”として機能しない、つまり商標としては登録を認めることができないんですね。
例えば1号の例として、りんごという商品に、「りんご」とか「APPLE」という商標をつけても、商品の一般名称が「りんご」や「APPLE」ですから、“一体誰の(誰が作って販売している)りんごなのか”という、目印にはなりませんよね(←一般名称を、誰か一人に独占させるべきではない、という理由もあります)。
ただ、もっと難しいのが3号(記述的商標)の判断です。
その商品/サービスの品質・質、産地・提供される場所…etcの名称をただ商標にしただけのものを指すのですが、商標登録をご相談される商標案では、これに該当してしまうものが結構多いのです。やはり、商品等についての“売り”になる品質などを、商標の名称としてアピールしたい・独占したいと思われることは多いでしょうからね。
ある程度手をかけた「図形ロゴ」の商標であれば、まずこの3条に該当する可能性は低いと思いますが、文字だけの商標の場合は、ONION商標など、商標弁理士のコンサルティングを受けたほうがいい点です。
★2.「登録しようと思っていた商標が、既に登録されていた!」→でも、すぐに諦めてはいけない理由
今度は逆に、簡易調査で同一の先願先登録商標が見つかっても、まだ登録できる可能性はあるので、すぐに諦めないでくださいね、という話です。
なるべく、具体的な例を挙げたほうがわかりやすいので、弊所弁理士の山中が以前勤めていたレコード会社名にちなんで、「EMI」という3文字の商標をとりあげて見たいと思います。
確かに、レコード会社「EMI」に関連するロゴは商標登録されているのですが、
- 登録1157970号 EMI(ロゴ) 権利者:イーエムアイ(アイピー)リミテッド
(※「EMI」というブランドは、ユニバーサル ミュージック内のレーベルとして現在も存続中です)。
実は他にも、「EMI」という商標登録が、別の権利者によりされているのです。
- 登録4777563号 「EMI」 権利者:株式会社イーエムアイ
「E、M、I」の三文字が、同じ順番に並んでいるロゴタイプ同士ですから、これらの商標が「類似」であることは間違いありません。なのに、どうして両方とも商標登録されているのでしょうか?
実は、商標を使用する商品、又は役務(サービスのことですね)がそれぞれ非類似だと、たとえ商標自体が同一又は類似でも、両方とも登録され得るのです。「一般需要者が、それぞれの商標を見ても、商品又は役務がかけ離れているから、混同してしまうことがないだろう」という理由からですね。
その商標を使用する商品や役務(いわゆる「指定商品等」)は、第1類〜第45類まで、45種類の「区分」によって分けられていますが、それぞれの登録の指定区分を比較してみると、
- 登録1157970号(音楽レーベルのほう) →第9類を指定
- 登録4777563号 →第5、42、44類を指定
「そうか!指定している商品等の区分がズレているじゃないか」ということに気がつきます。だから、指定商品等が非類似と判断されたのかな?…と。
しかし、この気づきは、もう少し調べると、あっさり崩されます(苦笑)。音楽レーベルのほうの商標登録の権利者は、他にも商標登録があって、
- 登録4204033号 「EMI」 権利者:イーエムアイ(アイピー)リミテッド
こちらでは「第42類」で登録しています。「あれ⁈ これより後に出願された、登録4777563号も、同じ『第42類』を指定して、登録されてるじゃないか!!」と。
実は、指定商品等の類似・非類似は、「区分」で判断されるのではないんですね。
両方の登録の「第42類」の指定の内容を見てみると…
(登録4204033 のほう)
42 作詞者・作曲者・指揮者のための楽曲・詞に関する著作権の管理,著作権の利用に関する契約の代理又は媒介
42R02
(登録4777563のほう ※第42類のみ)
42 医薬品・化粧品又は食品の試験・検査又は研究,農業・畜産又は水産に関する試験・検査又は研究,理化学機械器具の貸与
42Q01 42Q03 42X14
確かに見てみると、どうやら同じ第42類の中でも、全く違うジャンルの役務を指定しているようですね。そしてここでのポイントは、「42R02」「42Q01」という記号です。
号のような、数字とアルファベットを組み合わせた記号こそ「類似群コード」というもので、「商品と役務が類似するかどうか」は、この類似群コードによって決められているのです。つまり、商標の審査においては、一般的に「類似群コードが共通していたら、それらの指定商品・指定役務は『類似』」と判断する運用です。
確かに、それぞれの商標登録の、第42類の部分に書いてある類似群コードは、お互いにかぶっていないですよね。だから、両方の商標登録は「指定商品等が非類似→お互いの商標登録が認められる」という理屈なのです。
そして、厄介なことに、この類似群コードは、区分をまたがって、そして指定商品と役務をまたがって、つけられている場合も多いのです。
したがって、商標登録の調査の結果、同じ又は類似の商標が、先に出願/登録されているものがあったとしても、「指定商品等が(類似群コードが異なるために)非類似と判断される」ために、商標登録できるケースは十分にある(、だから「すぐに諦めないで」)ということなのです。
★3.まとめ
なお、今回は指定商品等の類否を中心に説明しましたが、そもそも商標の類否(類似かどうか)は、J-PlatPatでヒットした先願先登録が、絶対「類似」というわけではありません。ここでヒットしたものを、外観(見た目)・称呼(読み)・観念(意味)の、3つの観点から総合的に判断されます。どこか一つの観点が抜け落ちていて、類似の先願先登録商標が見つけられないというケースもご自身の調査では有りえます。また、出願して、審査官から「類似」として拒絶理由通知を受領しても、反論によってくつがえることもございます。
このように、商標登録できるかどうかに正しく判断するには、専門的知識をもった上での調査が必要となる場面も多いこともご理解いただけたと思います。ONION商標では、出願前に必ず、弁理士による「詳細」調査をしてから、出願のプロセスに進むのは、そのような理由からなのです。
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