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漫画、雑誌など、その他著作物全般について、海賊版のダウンロードが違法となる著作権法の改正が、今年の1月1日から施行されました。

◎改正著作権法が成立 漫画・書籍など違法DLの対象拡大 21年1月1日に施行https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2006/05/news115.html

著作権法改正は、条文を読むと本当に何のことやらわからなくなるような場合もあるので、「で、結果何がダメで何がOKになるのよ?」という結論だけを伝えてくれる報道も、ときにありがたいのですが、

今回の「著作物全般について、海賊版ダウンロード違法」という改正については、敢えて著作権「法」の角度から、過去の改正の経緯もふくめ、解説してみたいと思います。

★1.著作権の大前提
他人が創作した著作物を、無断でコピー、すなわち「複製」をすれば、それは(著作権のうちのひとつ)「複製権」(著作権法21条)の侵害となります。これが大前提です。

しかし、著作権法には、「制限規定」(同法30条~50条)というものがあって、ここに定められたケースでは、著作者・著作権者以外の人もその著作物を利用しやすくしてあげるべき「例外」的なケースなので、

 「著作者の権利を弱めて(=制限して)、著作権侵害とならない」

ようにしているのです。

その制限規定の最初(同法30条)に来ているのが、「私的使用のための複製」です。いわゆる「自分で個人的に使うために複製するなら、複製権侵害にはならないよ」というものです。

ちなみに、現在の著作権法は昭和45年(1970年)に施行されているのですが、当時の30条はこんなにシンプルでした。

第三十条 著作権の目的となつている著作物(※略)は、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用することを目的とする場合には、その使用する者が複製することができる。

この後、特に近年、30条が何回も改正されることになります。

★2.制限規定という例外の、さらに「例外」?
同法30条も徐々に改正され(1項と2項が設けられる)ていきますが、これは制限規定という「例外」について、

「こういう場合は制限規定が適用されず、やっぱり著作権侵害になりますよ」

という、いわば「例外の例外」的ケースが、細かく規定されていくものでした。例えば平成22年1月施行の法改正では、30条1項3号として、

三 著作権を侵害する自動公衆送信(※略)を受信して行うデジタル方式の録音又は録画を、その事実を知りながら行う場合

は、例外の例外(で、やっぱり著作権侵害よ)が加えられました。これらの改正により、

ネット上にある違法動画や違法音源を、「違法だとわかっているのにダウンロードしたら、(例外の例外で、やっぱり)複製権侵害よ」ということになったのです(ダウンロードって、PCのハードディスクに「複製」することですからね)。ネット時代への対応ですよね。

(また、平成25年の改正では、30条1項の「例外的にアウト」な複製に、主に3号関係で「刑事罰」を科すことにもなりました。)

ただ、ここでひっかかってくるのが「複製」と、「録音・録画」という文言の関係です。どちらもコピーとかダビングというイメージですが、どう違うのでしょうか…?

★3.「複製」>「録音・録画」
そもそも「複製」って、正確にはどんな行為なのか。 同法2条1項15号にちゃんと定義があります:

十五 複製 印刷、写真、複写、録音、録画その他の方法により有形的に再製することをいい、次に掲げるものについては、それぞれ次に掲げる行為を含むものとする。(※以下略)

つまり、「録音」「録画」っていうのは、「複製」の類型の1つなんですね。

さらに、それぞれの定義もありまして、2条1項の以下の号ですが:

十三 録音 音を物に固定し、又はその固定物を増製することをいう。
十四 録画 影像を連続して物に固定し、又はその固定物を増製することをいう。

つまり、「録音」っていうのは「音のあるもののコピー」だし、「録画」っていうのは「動画・映像のコピー」なんですよね。

何を当たり前のこと言ってんだ?と思われるかもしれませんが、ここダイジだったんです。だって、

 「文章」や「動かない絵・画像」とかをコピーすることを、「録音」とか「録画」って言いますか? 

言わないですよね。つまり、これまでの同法30条1項3号では、「録音・録画」しかダメと書いていないので、対象は事実上、音楽や動画(映画)の著作物だけであって、

音でも動画でもない「マンガ」や「小説」(言語の著作物・美術の著作物)などについては、違法な海賊版だとわかっていてダウンロードしても、30条で「例外的にアウト」にならなかった、つまり私的使用目的の複製である以上、著作権侵害にならないので、処罰もできなかったわけです。

★4.特定侵害複製?
そこで、今回の法改正です。新しく施行された、同法30条1項3号を見てみると、

三 著作権を侵害する自動公衆送信(※略)を受信して行うデジタル方式の録音又は録画(以下この号及び次項において「特定侵害録音録画」という。)を、特定侵害録音録画であることを知りながら行う場合

という風に、ちょっと変えられた上で、新しく4号が加えられました:

四 著作権(※略)を侵害する自動公衆送信(※略)を受信して行うデジタル方式の複製(録音及び録画を除く。以下この号において同じ。)(当該著作権に係る著作物のうち当該複製がされる部分の占める割合、当該部分が自動公衆送信される際の表示の精度その他の要素に照らし軽微なものを除く。以下この号及び次項において「特定侵害複製」という。)を、特定侵害複製であることを知りながら行う場合(当該著作物の種類及び用途並びに当該特定侵害複製の態様に照らし著作権者の利益を不当に害しないと認められる特別な事情がある場合を除く。

今回改正された条文は、パッと見、何のことを言っているのかわからないのですが、ざっくり言えば、

音や動画以外の著作物全般((漫画・書籍・論文・コンピュータプログラムなど)についても、違法アップロードされたもののダウンロードを、違法だという事実を知りながら行う場合には、違法(著作権侵害)

にするようになったわけです。

★5.まとめ(ざっくりとつかんでほしいこと)
著作権法は、著作物を創作した著作者に、著作権等といった独占的な権利を与え、保護しています。一方で、著作物を利用する側のことも考えています。つまり、利用する側のことを思っての「例外」が制限規定なわけです。

今回の法改正は、そんな「例外の例外」の拡大で、海賊版対策に実効性が高くなったわけですが、これはつまり著作(権)者側の保護を強めるものです。

しかし、あまりにその保護が強くなってしまうと、今度は、著作物を利用する国民一般の、正当な情報収集等などの行為が「著作権侵害になっちゃうかも!」と必要以上に萎縮されてしまうのおそれもあるわけです。

そこで、以下のような規定(30条2項)も加えられています。

2 前項第三号及び第四号の規定は、特定侵害録音録画又は特定侵害複製であることを重大な過失により知らないで行う場合を含むものと解釈してはならない。

これは、違法にアップロードされたことを「知らずに」ダウンロードしてしまった場合、知らなかったことについて重大な過失があったとしても、違法とはならないことが明記するものです。

つまり、法改正では権利者と利用する側の「バランス」をとりながら、ベストな落としどころをさぐっているわけですね。

日本の著作権法は、細かいケースを具体的に規定するので、条文がかなり難しくなってしまっているのですが、その是非は今回は置いておいて、「条文に立ち返ると、個々の文言の意味がわかるよ」ということ、「改正の経緯をたどっていくと、その意図が理解できるよ」ということ、そして権利者と利用者の「バランス」を図る観点がもたれていることを、ざっくりおさえていただきたいと思います

(なお、今回の法改正では、他にも「リーチサイト規制」や「写り込みに係る権利制限規定の対象範囲の拡大」等もなされていますが、それらもその観点で、確認していただけると幸いです)。