ONION商標・弁理士の山中です。
日本の芸能界では、大手マネージメントからの「退所」という報道をよく見るようになりました。マスコミに影響力を持つ大手が、退所したタレント/アーティストを起用しないように圧力をかけたりすれば、独占禁止法に抵触するおそれがあるというスタンスを公正取引委員会が打ち出したこともあるのでしょうが、大手が得意とするマスコミ以外にも、活動・発表の場(インターネット上ですね)が開かれてきたことのほうが大きいのかもしれません。
さて、私も日本の音楽や芸能に、子供のころからどっぷり浸かって育ってきましたから、マネージメントに「所属」するとか、「退所」するとか、あるいはタレントが不祥事を起こして「解雇」されるといった報道になじんでいたところ、レコード会社に入社して洋楽部門に配属されてから、海外からのあるニュースに驚きました。
「A(※欧米のアーティスト)が、マネージャーを解雇!」
えっ?アーティストがマネージャーをクビにしちゃうの?逆じゃん!と最初は思ってしまいましたね。欧米では、アーティストが、セルフ・マネージメント(自分自身でマネージメントすること)が原則で、とはいえ実際は、創作・演奏活動以外のその他もろもろを、自分自身ですべて処理できるわけもないので、そうした部分を代理するマネージャー/マネージメントを「雇う」という発想なんですね。海外でも音楽、スポーツ、ファッションなど業界によって一般的な契約スタイルの差異はあるでしょうが、大元にあるのはこの論理です。日本でも最近聞くようになってきた「エージェント契約」というものも、あくまでこの「アーティスト/タレントが主体」という考え方がベースになっていると思います。
実際、自分が関わってきた欧米のアーティストでも、マネージャーの「解雇」というケースがありました。思い出されるのは「スパイス・ガールズ」と、「リチャード・アシュクロフト」(The Verveというバンドのフロントマン)」です。
スパイス・ガールズは、イギリス出身の女性5人組で、96年にデビューすると、本国はもちろんここ日本やアメリカを含めた世界中で大ヒットとなり、スローガンの「ガール・パワー」で席巻したわけですが、その成功のバックには、サイモン・フラーという有能なマネージャーがついていました。後に、世界中に輸出されるTV番組を立ち上げたり、ファッションやスポーツ・マネージメントでも活躍していった人ですが、そんな優秀なマネージャーを、ガールズたちは解雇してしまったのです。成功は彼女たちが強く望んだものでしたが、想像以上の規模の成功から来るプレッシャーや忙しさから逃れるためには、自分たちでマネージメントをするしかないと考えたのでしょうか。
自分がレコード会社で彼女たちの作品を担当したのは、自分たちでマネージメント会社を設立して(一応、アシスタントはいたものの)自分たちで全てのことを決めていた、セルフ・マネージメント時代でした。すると、やはり全体的なコントロールが効かないんですね。(「成功したら、個々の好きなことをやろう」と約束していたのかもしれませんが、)ほぼ同時期に、グループとしてのアルバムと、各メンバーのソロ・アルバムが発売されてしまい、マーケティングは大渋滞。いい作品だったのに期待されたほどの成功とはなりませんでした。
もう一つ、リチャード・アシュクロフトという人が率いたThe Verve(ザ・ヴァーヴ)というロック・バンドのケースも思い出されます。安易に売れ線を狙うことなくわが道を行き、批評家たちからは評価を受けつつも、商業的な成功はつかめずに、一旦は解散まで追い込まれました。しかし、「Bitter Sweet Symphony」という楽曲(※「テラスハウス」で聞いたことがある人も多いかもしれません)がきっかけで再結成、世界的な成功を収めることになりますが、その背景には癖のあるロック・バンドやヒップホップのアーティストを多く成功に導いたマネージャー、ジャズ・サマーズがいました。
しかし、そんな彼らの関係も一度は崩壊します。レコード会社からリチャードが受け取ったアドバンス(※印税前払い金)のうち、ジャズに支払われるはずの分が支払われていないとして、訴訟が起こされたのです。名声をつかんだアーティストとマネージャーが裁判沙汰なんて、こんな悲しい話はありません。
ただ、面白いのは、スパイス・ガールズにしても、リチャード・アシュクロフトにしても、一度は袂を分かったマネージャー達と、後にもう一度手を組んでいるところです。解散状態となったスパイスはその後、ロンドン・オリンピックの閉会式やコンサート・ツアーで何回か再結成を果たしていますが、その背後にはやはり、苦楽を共にしたサイモンの存在があってこそ実現したものです。そして、リチャードもまたジャズ・サマーズと和解したことで、一度はThe Verveの再結成を果たしています。
こうしてみると、絶頂期に解雇とか、裁判沙汰までいったマネージャーを、もう一度雇う(雇われる)という、ちょっと外部からは理解しがたいことが起こるのは、決してビジネス・ライクな判断だけではなく、最後は「人と人との絆」の話なのではないかな、と感じずにはいられません。成功するタッグには、アーティストの才能に対するマネージャーのリスペクト、そしてマネージャーの領域へのアーティストの信頼が不可欠なのです。そして、そんな「人」「絆」の重要性は、(マネージメント・システムの違いこそあれ)日本も欧米も、変わらない部分なのではないでしょうか。
ちなみに、前述のジャズ・サマーズは、2015年に惜しくも亡くなりました。その葬儀では(再度、マネージメント関係は解消していた)リチャードが、惜別の歌唱をして列席者の感動を呼んだそうです。大英帝国にも「浪花節」はあったのです。
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