ONION商標・弁理士の小野尾です。

突然ですが、ついこの前、友人がギターを売りました。

そのギターは、「Jackson」(正確には「Grover Jackson」)というハードロック/ヘヴィメタル界隈御用達ブランドのギターでした(友人はその界隈のアーティストの愛聴者です)。

ちなみに、友人が保有していたのは、メガデスのデイヴ・ムステイン・シグネチャーモデルのThe King Vです。
(写真は、売却前に撮影させてもらったヘッドロゴです)

「Jackson」のギターは、上述のデイヴ・ムステインの他にも、彼のかつての同僚であり、日本では「タモリ倶楽部」等のテレビ番組出演でお馴染みのマーティ・フリードマンも愛用(モデルは「the kelly」)していますし、それこそ紹介しだしたらキリがないほど著名なギタリスト達に愛されていますね。

そんな「Grover Jackson」というブランドですが、「ジャクソン/シャーベル マニュファクチュアリング,インク.」という企業により、日本でも商標登録(登録第2326621号)されています。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/TR/JP-1987-133242/FE565D627930599D280068B923E3B6208BE52B7D6F133A43FAFED1F04420F6EE/40/ja

ところで、この企業名にある「シャーベル」も、ギターのブランド名ですよね。
https://www.charvel.com/

実は、ウェイン・シャーベル氏が創業した、「Charvel」(登録第2717847号)というブランドこそ、「Jackson」ののルーツになります(この「Charvel」もハードロック/ヘヴィメタル界隈では人気のブランドです)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/TR/JP-1990-056770/3E7E056D58CFC23408937BA68AE0EC95871C015EE6CB96131DAAAAA92296123E/40/ja

この「Charvel」のクラフトマンだったグローヴァー・ジャクソン氏が、ランディ・ローズ(オジー・オズボーンのバンドの初代ギタリスト)・モデルのカスタムギターを制作し、そのギターがいままでの「Charvel」のギターとは一線を画すイメージだったため、このモデルに「Jackson」のロゴを入れたのが始まりなのだそうです。

その後も、コンコルド・ヘッド、シャーク・フィン・インレイなど独創的なルックスも含めてプレイヤーを魅了し、現在まで愛用されるギターブランドとなっています。

そんな「Jackson」ですが、商標権の都合でロゴが日本国内で使えなかった時期があります。一体何が起きたのでしょうか…

最初は日本国内においても、大きな「Jackson」のロゴがヘッドに入ったギターが販売されていました。
しかし、90年代半ば、「JAXON\ジヤクソン」(外観は異なりますが、称呼は共通)の商標権(登録第1191801号)を当時保有していた日本国内の商標権者からの要請により、ブランド名の変更を余儀なくされます。

その時に生まれたブランド、つまり商標権侵害を回避するために生み出されたブランドこそ、友人の保有していた「Grover Jackson」だったのです。

そして、この「Grover Jackson」のブランドで販売している期間もそこまで長くなく、2000年頃には、再度ブランド名が「Jackson Stars」(登録第4128742号)に変わります。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/TR/JP-1996-054311/01C607537E0D24E7E8809CAE1F31B0F0DB3E9DDA2F788BF203D19C8645A186AA/40/ja

その後「Jackson」の商標権問題はさらに混迷を極めます。2005年頃に日本国内の「JAXON\ジヤクソン」の商標権者が、「JACKSON/ジャクソン」についても出願し、商標登録を受けてしまったのです。

しかし、ジャクソン・シャーベル・マニュファクチャリングは事態を解決すべく、商標登録無効審判を請求すると、商標法第4条第1項第10号(他人の未登録周知商標と類似)の理由により無効審決が出されます。

これが契機となったか、混乱の発端となった日本での「JAXON\ジヤクソン」の商標権についても、ジャクソン・シャーベル・マニュファクチャリングに移転されたのです。

そうなると、「同一権利者」による商標同士であれば、商標が類似しても登録が認められますので、「Jackson」のロゴについても、無事同社が登録を受けることができたわけです。下記リンクをご確認いただくと、現在はどちらのブランドも、ジャクソン・シャーベル・マニュファクチャリング社のものになっていることが確認できるかと思います。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/TR/JP-1973-101394/75BB477BF8534635FCDE4CDCD5E14D9CD07C4A93C457518B4E1724ED7FFE5420/40/ja

https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/TR/JP-2009-008017/8274DBD31923E592D48E9811DFDC8F2E594C21BEA80F3D4BD1B15689576E9653/40/ja

おかげさまで、同社のブランドとして、「Jackson」ロゴのギターも日本国内で復活しています。
https://www.jacksonguitars.jp/

このように最終的には、ブランド復活となったわけですが、その間にはブランド変更などの負担を余儀なくされたわけであり、ビジネスにおいて先に商標登録をしておかないことのリスク、海外進出の際の当該国における商標権取得の重要性を強く感じる事例かと思います。

ところで、最後に、友人のギターは、この過渡期のギターで希少だったのかどうかわかりませんが、想像よりもいいお値段で売れたようです。しかし、その数日後に「デジマート」で見たら買取価格の倍以上の金額で売られており、またその金額でも数日のうち売約済みとなっていたため、若干のショックを受けておりました。楽器屋さん恐るべし(苦笑)。というか、このコロナ禍の影響もあるのか、楽器がすごく売れている気がします。結構高額なものでも、あっという間に売れていくなぁと。

しかし、私の友人も負けてはいません。「Grover Jackson」を売った後、今度は「Jackson Stars」のランディVを買っていました(笑)。それだけ、「Jackson」は、ハードロック/ヘヴィメタルのリスナー、プレイヤーをひきつける魅力のあるブランドなんだなぁと、しみじみ感じる出来事でもありました。