ONION商標・弁理士の山中です。
弊所も、また私個人的にも、Twitterはアカウントを所有しており、たまに情報発信(…というより、文字通りの「つぶやき」レベルですが)をしておりますが、昨年10月のイーロン・マスク氏による買収以降、さまざまなサービスの変更が行われているのは、皆様もご存じかと思います。
しかし、さすがにこのニュースはびっくりしました。いや、「ニュース」として報道する前に、多くの方が、ご自身のTwitterのアカウントに突如変化が生じ、それをつぶやいた結果、急上昇ワードになっていたからなのですが…
「マスク氏 ツイッターのロゴ 青い鳥から「X」に変更を明らかに 」(NHK Web)
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230724/k10014140591000.html
あの鳥のマークから、この「X」をモチーフにしたロゴに変更となったんですね。
ここまで認知が進んだブランドを、いきなり変更するとは、衝撃です(もっとも、日本では根強い人気を誇るTwitterも、他国ではブランド変更をしなければならないほど、存在感が低下していたのかな…とも邪推してしまいましたが)。
さて、このニュースに反応し、さらに話題を読んだのが、こちらの方の投稿です。
「YOSHIKIが心境「#X JAPAN商標登録してあると思うけどなー」ツイッターが「X」に変更発表」(日刊スポーツ)
https://www.nikkansports.com/entertainment/news/202307240001570.html
そもそも、バンド名「X」だったものが、92年に世界進出するにあたり、同名のバンドがアメリカに存在したこともあって、「X JAPAN」という改名をした経緯がありますから、YOSHIKIさんも名称・商標については、非常に敏感でいらっしゃるのも当然かと思います。
さて、今回のニュース、ぜひ説明しておきたい「商標の原則」がいくつか含まれているので、これを機会にご説明したいと思います。
ポイント① そもそも「ローマ字1字」の商標は、登録できない。しかし…
商標法では、登録が認められるために必要な、さまざまな要件を定めていますが、
他の商標と区別できる”目印”となる力、いわゆる「識別力」の有無は、重要な要件です。
具体的には、商標法3条1項各号のどれかに該当すると、識別力が認められない商標であるとして、登録が認められないわけですが、その五号:
五 極めて簡単で、かつ、ありふれた標章のみからなる商標
は、登録を受けることができないと定められています。では、具体的には、どのような商標が該当するのか、商標法とは別に、その法律に基づいて(特許庁審査官が)審査されるにあたっての、「商標審査基準」というものが存在します。こちらでは、以下のように定めています:
3.「極めて簡単で、かつ、ありふれた標章」について
(1) 「極めて簡単で、かつ、ありふれた標章」に該当するものとは、例えば、次のもの
をいう。
(中略)
(イ) ローマ字について
① ローマ字の1字又は2字からなるもの
(以下、省略)
そう、本来、「X」のように、ローマ字1字では、商標登録は認められないのです。
しかし、です。YOSHIKIさんがおっしゃるとおり、バンドの商標登録は認められています。
登録4868300号(権利者:株式会社ジャパンミュージックエージェンシー)
しかし、これは、ローマ字1文字ではなく、「JAPAN」という文字があるからでは?と思われる人もいらっしゃるかもしれません。
いや、しかし、このような商標も登録が認められています。
登録3346645号(権利者:株式会社ジャパンミュージックエージェンシー)
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/TR/JP-1993-097048/B49713B2A0490BAEC7D766FDC2338108D4B01F18C7BFA116703E9587FBAA3D75/40/ja
(※上述の権利者が、同じ商標について、他の区分にて別途の登録が複数有しています)
こちらは明らかに、「X」1文字ですよね(そもそも、”JAPAN”という文字も、地名であり、商品の産地・販売地、役務の提供場所を示すに過ぎないものとして、識別力はないか、極めて弱いものです)。
では、なぜこうした登録が認められているのでしょうか。実は、「商標審査基準」は、先ほどの引用部分では終わっておらず、以下のような続きもあります:
(2) 「極めて簡単で、かつ、ありふれた標章」に該当しないものとは、例えば、次のよ
うなものをいう。
(中略)
(オ) 特殊な態様で表されたもの
はい、上述の、アーティスト「X」の登録商標は、単なるローマ字ではなく、デザインされている点が「特殊な態様で表されたもの」であると評価された、ということでしょう。
つまり、
*特殊な態様であれば、ローマ字1字が共通するだけでは、「商標類似」ではない
→その態様の特殊な部分、つまり図形の特殊な部分なども含めて共通・類似していなければ、違いに「商標非類似」と判断される
ということになります。
そこで、あらためて、この2つの「X」を比較してみると….
まだ下の方は、日本では出願されていないようですが(※7月、この「X」も「特殊な態様」と判断されれば、上の「X」とは態様の特殊な部分は共通しないので、「商標非類似」と判断される可能性も十分あると考えます
(※あとは、上の、バンドの「X」ロゴは、日本ではかなり高い周知性を既に獲得していることが、どう類否判断に影響を与えるか、というところでしょうか。また、旧Twitter社の「X」ロゴと、態様も似ている先願が他に存在すれば、そちらが引例となって登録は認められないことになります)。
ポイント② 商標が類似していても、指定する役務等の範囲が類似(重複)していなければ、それぞれが併存して登録が認められる。
たとえ商標が同一又は類似であっても、商標を使用する商品、又はサービス(”役務“と呼びます)がそれぞれ非類似だと、たとえ商標自体が同一又は類似でも、両方とも登録され得るのです。「一般需要者が、それぞれの商標を見ても、商品又は役務がかけ離れているから、混同してしまうことがないだろう」という理由からですね。
【参考】商標の「簡易検索」の落とし穴!早いもの勝ちと言われる商標登録の「誤解」とは?
http://onion-tmip.net/update/?p=1334
アーティストが、そのアーティスト名やロゴマークの商標登録の際、指定すべき区分(及び指定商品・役務)は、第41類(「音楽の演奏」等)や、アーティスト名等を付して販売するマーチャンダイジングの各商品の属する区分を指定することになります。
【参考】【ONION商標・弁理士のつぶやき(ときに長め)】「アーティスト・ロゴもブランドです」
https://onion-tmip.net/update/?p=218
【参考】【そのお仕事に必要な商標は「コレ」です】ユーチューバー/Vチューバーがとるべき商標とは?(※弊所提供のサービス「ロゴトアール」サイトより)
https://logoto-r.com/1037/
一方、Twitter改め、「X」のような、SNS事業が取得すべき区分とは、どのようなものでしょうか。そもそも日本におけるTwitterが、どのような範囲で登録をしていたのかを確認すると、米「トゥイッター インコーポレイテッド」社は、象徴的だった、鳥のアイコンのマークの商標登録:
これ以外にも、文字「TWITTER」「ツイッター」など、複数の商標登録を保有しているのですが、それらを総合すると、
第9類:「ソーシャルネットワーキングに関するダウンロード可能なコンピュータソフトウェア」等の指定商品 (※「ダウンロード可能なアプリケーション」が、この区分)
第35類:「コンピュータネットワークにおけるオンラインによる広告及びマーケティング」等の指定役務(※いわゆる広告代理店的な意味での「広告業」、「コンサルティング」「市場調査」等が、この区分)
第38類:「電気通信(「放送」を除く。)」「メッセージの送信のための通信」等の指定役務(※いわゆる「電子掲示板」とか、ダイレクトメッセージをやりとりできるサービスの提供などは、この区分)
第41類:「電子出版物の提供」「娯楽情報の提供」等の指定役務(※教育関係の役務も多く分類されている区分ですが、SNSもニュースや情報などを提供することを考えれば、この区分)
第42類:「電子計算機用プログラムの提供」「ソーシャルネットワーキングに関するコンピュータデータベースへのアクセスのためのコンピュータプログラムの提供」等の指定役務(※SNS事業のためのサーバーの保守や、オンラインで走らせて提供するソフトウェア<SasS>の提供などは、この区分)
第45類:「オンラインによるソーシャルネットワーキングサービスの提供」等の指定役務(←ズバリ、ですね)
など、多岐に渡ります。
そして、上述のとおり、たとえ商標が同一又は類似でも、指定商品・役務の範囲が重複しなければ、それぞれの商標は併存登録されるのです。
今回の話題で、「X JAPAN」のファンが、登録していない区分について「早く出願して!」というようなSNS上の書き込みもあったようですが、
商標登録は、あくまでその商標を使用する商品・役務を指定して登録するものですので、上記の「SNS事業に必要」な区分で、まだ登録していない範囲があっても、アーティストとしての「X JAPAN」が、その商標を使用して展開する予定のない事業について、商標登録をしてもあまり意味がないですし、ポイント①でご説明したように、違いに「商標非類似」と判断されることも十分あるかな、という印象です。
今後、「X」が日本でどのような商標戦略をとるのかは、弁理士としても、旧Twitterの利用者としても気になるところですが、
こういうニュースを通じ、むしろ上述のような「商標登録の原則」をご説明する、いい機会になったかなと思います。
いやしかし、この連載コラム、普段は知財にあまり関係ない話題も多いのですが、今回は真面目につぶやいちゃいました。もっとも、140字どころじゃなく、長めの「つぶやき」なのはいつもどおりですが(汗)。
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