最近は少しごぶさたしてしまっているのですが、コロナ禍前は、「商標セミナー」を不定期に開催していました。セミナー参加者の中には、

「新しい事業を始めるには、商標登録をしないといけませんよね!」

というスタンスでご相談くださるお客様がいらっしゃいます。

もちろん、社名や商品名、サービス名など、「商標登録はしておいたほうが、(さまざまな理由で)良い」のは事実ですので、そのまま出願に向けてのコンサルティングへ入っていくのですが、コンサルティングの最中でも「あれ、もしかして、商標登録の意義を少し誤解されているのかな?」と思うことがあります。

一方、商標登録をご検討でも、

「とりあえず、商標登録しておけば、大丈夫ですよね?」
「なるべく費用はかけたくないので、(指定区分の数は)1区分でお見積りをください」

とご相談される方々もいらっしゃいました。その商標をどのように使用するかや、その効力にはあまり関心がないという感じで、こういうケースもまた、商標登録の意義に誤解があるのかな?と感じていました。

これ、弁理士として商標の仕事をし始めてから、常々感じてきたことなのですが、商標登録の”登録”という言葉の与える響き・印象が、商標登録という作業を、商品を販売したり、サービスを提供したりするための「営業許可」「事業免許」みたいなものと、勘違いさせる効果があるのでは?と。

一方、お客様の中には「勘違い」はしていないけれども、そもそも商標登録に関心がない、積極的でない方々もいらっしゃいます。つまり

「別に、商標登録をしなくても、商売ができないわけじゃないですよね?」

というスタンスを、根底にお持ちであるように感じられる方です。これはあながち間違ってはいません。商標登録は、事業の「許可」「免許」を得るようなものではないので、「『しなければ事業ができない』という類のものではない」という点は、その通りですから。しかし、こういう方には、商標登録をしないことで「さらされているリスク」「逃しているメリット」の視点が欠けていることになります。

今回は、タイトル「キホンのキ」通り、あらためて「商標登録」って何のためにするのか、するとどういういいことがあるのか(しないと、どういうコワイことがあるのか)を、まとめてみたいと思います。

では、ざっくり申し上げましょう。商標登録とは、なんのための作業なのか。それは、

商標登録とは、「知的財産権のひとつ『商標権』を、取得する作業」

です。商標登録が特許庁になされると同時に、商標権が発生しますからね。
しかしこれだと、『商標権』が何を与えてくれる権利なのか説明してませんから、もう少し噛み砕きますと、

「御社の商品が持つ/これから持つ『ブランド力』を、商標権を取得することにより、御社の『無形資産』とする作業」

となります(なお、わかりやすく”御社”としましたが、個人事業主でも当てはまりますし、”商品”としましたが、サービスも当てはまります)。

弊所の「商標登録ガイド」でも、カバンを例に説明させていただいているのですが、
https://onion-tmip.net/trademark.php

御社の商品やサービスには、その名称(社名や商品名)や、ロゴマークなど、”目印”となるものを付して、販売・提供されていらっしゃると思います。商品の品質などが原動力となって人気が出て来れば、その目印を頼りに、(他者の商品ではなく)御社の商品を敢えて購入される方が増えてくるでしょう。それこそ、御社の商品、正確にいえば “目印”となっている名称やロゴマーク=即ち「商標」に、「ブランド力」が備わった状態です。

「うーん、まだこれから始める(始めたばっか)だから、ブランド力があるとはまだ言えないかな…でも、うちの商品力に自信があるから、これから絶対ブランド力が出てくるはず!」

という方。大丈夫です。日本の商標制度は、これから使用する商標でも、特許庁への商標登録手続きをすれば、「あ、これからちゃんと使用して、ブランド力を獲得していくんですね。それでは先にあげときますね」という感じで、商標登録を認めてくれます。即ち…

商標にブランド力が生まれる前に、先に商標権を与えてくれる

のです。なお、念の為に書いておくと、

*登録が認められた商標が、「登録商標」
*登録商標と同時に与えられるのが、「商標権」

です。

ところで、商標権はどうやって、そのブランド力を守るのかというと、前述の弊所ウェブサイト弊所「商標登録ガイド」内の【商標登録により守られる権利とは?】」にもあるとおり、ざっくりいうと、

*早い者勝ちで登録した人だけが、登録商標を使える
(他の人は使えない。使ったら商標権侵害)
*登録商標に「類似する」商標も、他の人には使わせない
*だから、同じか類似する商標を、後から登録しようとした人には、登録は認めない

ことにより、登録商標は御社しか使えない(独占)ようにする+他の人は、御社の商標や似た(寄せた)商標を勝手に使えないようにするのです。そうすれば、確かに、御社の商標のブランド力は守られそうですよね。なお、

*ただ、独占できるのは、最初に「使います」って言った、商品やサービスの範囲内ね。

となっています(←これが、商標登録出願するときに指定する、区分及び指定商品・指定役務です)。

これから事業を始める、新しい商品を発売する、といったときに、初めに(それこそ、会社名や商品名を決めてしまう前に)商標登録の手続きをしたほうがいいのは、それは事業の免許や資格を得るものではなく、あくまで

「早い者勝ちだから、その名称が他の人に既に登録されてしまっている場合がある(→自分は商標登録できない=商標権を取れない)
→その場合に商標登録をせずに使用し続ければ、他の人の商標権を侵害してしまう、というリスク

があるからです。ですので、

「うちの会社の商品は、結構既にファンがいるから、ブランド力があることに自信があるよ。でも、まだ商標登録してないけどね…」

という方は、

すぐに商標登録手続きをすべき

、いやその前に必ず弁理士がするはずの

「商標登録できるかどうかの詳細調査(特に、他人が既にその商標を登録していないか、の調査)」をすべき

ですね。もし、他の人が登録してしまっていたら、御社の商品は「商標権侵害」をしていることになり(いつ「使わないで」と言われるかわからない、それこそ「損害賠償請求」をされるかもしれない)、これはとんでもないリスクを抱えていることになります。

そうすると、

「うちの会社の商品名は、商標登録してないけど、もうそれで何年も経っていて、誰にも訴えられてないから、さすがに(商標権侵害で)訴えられたりはしないでしょ」

とおっしゃる方もいるかもしれません。確かにそういうケースでは、そのリスクは下がっていると言えるでしょう(ゼロとは言えませんが)。

しかし、それだけ長くその商品が販売を続けているということは、人気商品であり、その商品名やロゴマークなどには、かなり高い確率で「ブランド力」が生まれているはずです。にもかかわらず、商標登録をしていないことで、

「ブランド力の存在を、商標権という無形資産にする」というメリット

を逃し続けているわけです。無形資産とできれば税制上もメリットがありますし、(ネガティヴな理由だけでなく、)その商品事業を譲渡する可能性はあり得るわけで、そういう際にも安心して取引がすすむこと、その事業に「商標権の対価」として値付けがしやすくなる、などのメリットがあるわけです。

さらにいうと、そんなメリットを「得られなくなるかもしれないリスク」も新たに生じているといえます。その商品が画期的で、世の中的にも同様の商品のことは、御社の商品名で読んでいるような場合、その商品名=商標は、御社のものであるという”目印”となる力が失われ、

名付け親かつパイオニアである御社にも、商標登録が認められないかもしれない

のです。それが、商標の「普通名称化」、「記述的商標」といったリスクです。
(登録商標ですら、使い方を間違えると、普通名称化してしまいます…

【参考】 「普通名称化」~せっかくの登録商標が効力のないものに?
https://onion-tmip.net/update/?p=419 

つい長文となってしまいましたが、「商標登録って、一体何のためにするのか」「商標登録をすると、どんないいことがあるのか(しないと、どんなリスクがあるのか」を、あらためて整理する一助となれば幸いです。

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