つい先日、ラジオを聴いていたら、ある企業の方が出演され、以下のような趣旨の発言をされていました。

「これは、うちの会社の特許技術なんで、詳しくは言えないのですが…」

はい、自分も弁理士になる前なら、「そうなんだろうなぁ」と納得して、聞き流してしまったと思います。しかし、弁理士になった今は、このような”誤解”は、なるべく解消していきたい、とつい意気込んでしまうんですね。

特許の基本を箇条書きにしますと、

  • ”特許(技術)”というのは、さまざまな発明の中でも、特許庁に出願をし、審査を経て、「登録が認められた=特許権が付与された」発明のことを指します。

  • しかし、特許庁に提出する出願書類(「特許願」、通称″願書”)では、その発明の内容を、文章や図面で説明しなければなりません。

  • そして、その特許願の内容は、出願から1年6ヵ月経過すると、自動的に「公開」されてしまいます。

そうです。

発明を「特許」にするということは、公開すること

でもあります。つまり、(企業)秘密にするのとは真逆の行為なんですね。

(なお、特許として認められるための要件の一つが「新規性」ですので、その発明を出願する”前”、または出願してから1年6ヵ月経過前であれば、「詳しくは言えないのですが…」というのは理にかなっています)。

ただ、このキホンについては、過去にもこちらの記事で、もう少し詳しく説明させていただいていました。

【知財キホンのキ】「企業秘密」「門外不出」が公開されちゃう? 〜特許出願にまつわる誤解について
https://onion-tmip.net/update/?p=1251

今回ご説明したいのは、そんな「特許出願したら、その発明は公開される」という大原則に、2024年5月以降 ”例外”が誕生する、つまり

「特許出願しても公開されずに、その発明を秘密のままにする」制度ができる

という話です。

では、一体、どのような発明が、「出願されても、秘密なまま」なのでしょうか?

実は、その制度には、”国家の安全保障”という観点が影響していたのです…

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2022年5月、「経済安全保障推進法」という法律が成立・交付(※)されたのですが、そこに含まれた4つの施策の一つに、「特許出願の非公開に関する制度」があります。
(※施行期日は公布から2年以内ですので、この5月に向けて、段階的に施行されていきます)。

そもそも、この法律の趣旨が

「国際情勢の複雑化、社会経済構造の変化等に伴い、安全保障を確保するためには、経済活動に関して行われる国家及び国民の安全を害する行為を未然に防止する重要性が増大していることに鑑み、安全保障の確保に関する経済施策を総合的かつ効果的に推進するため、経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する基本方針を策定するとともに、安全保障の確保に関する経済施策として、所要の制度を創設する」

とあるのですが、
すごくポイントを絞ると、要は

「安全保障の確保」が主目的

ですよね。
では、具体的に、どのような発明の出願が「非公開」になるのでしょうか。

特許出願の明細書等に、
特定技術分野に属する発明が記載されているときは、
特許庁長官は出願書類を内閣総理大臣に送付し、
当該発明は保全審査に付されることとなる

とのことですが…ちょっと難しいですね。

ちょっと噛み砕きますと、特定技術分野というのは、25種類の分野が定められていて、たとえば、

  • 「航空機等の偽装・隠ぺい技術」のような『我が国の安全保障の在り方に多大な影響を与え得る先端技術が含まれ得る分野』と、
  • 「使用済み核燃料の分解・再処理等に関する技術」のような、『我が国の国民生活や経済活動に甚大な被害を生じさせる手段となり得る技術が含まれ得る分野』

から構成されているんですね。

つまり、こうした特定技術分野の発明には、

「安全保障上、機微な(※容易には察せられない微妙な事情を有する)発明」

である可能性がありますので、ここを審査(保全審査)した結果、該当すると判断された発明については、

保全指定(※)をして出願公開を留保、つまり「非公開」とする仕組み

なのです

(※他にも、「出願取下げ不可」「発明の実施は許可制」「外国出願禁止」といった制約も定められています)。

こう考えると、防衛・軍事に関わる発明や、国や国立研究開発法人による発明、または国の委託を受けて、研究開発されている民間企業等の発明でないと、なかなか上述の「出願されても非公開」の発明に指定されることは少なさそうです。

ですので、最後にあらためてざっくり整理すると、

特許発明は、出願→審査を経て「特許権」が付与された発明ですが、そもそも出願から一定期間が経過した段階で、「公開」されています。つまり”秘密”ではない。

②今年(2024年)の5月以降、出願しても公開されない発明が出てくるが、これは「国家の安全保障上」むやみに公開すべきでない、一部の分野の発明に限られる

というのが正解になります。

最後に、ここで出てくるかもしれない、キホン的な質問に答えておきましょう。

「(①の)特許発明って、その発明を公開しちゃって、他の人にマネされないの?」

はい、マネしちゃったら特許権侵害ですから、特許権が存続(※出願から20年)している間は、できないんです。それぐらいの独占的な権利を与えられないなら、発明者は気前に出願→公開してくれませんもんね。

 

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