令和5年(2023年)6月に可決・成立した「不正競争防止法等(※商標法、意匠法も)の一部を改正する法律案」ですが、6月14日に法律第51号として公布されました。
そして、肝心の施行日ですが、一部を除き「公布の日から起算して1年を超えない範囲内において政令で定める日」となっていましたので、
今年(2024年)から、法律施行(←実際の出願に適用)が、順次なされております。ここでは、主な改正をまとめてみたいと思います。
★1. 【意匠(施行済み)】「新規性喪失の例外規定の適用」手続の要件緩和
意匠登録の要件の一つに、「新規性」があります。日本国内だけでなく、世界基準で、「新しく創作された意匠(物品等のデザイン)」でないと、登録は認められないのですが、
【知財キホンのキ】はじめての意匠登録〜商標登録とは何が違う?(その2:意匠登録ならではのハードル?)
https://onion-tmip.net/update/?p=1062
自分で創作した意匠でも、一旦公開してしまったら「新規性」が失われてしまいます。しかし、それでもう意匠登録できないのではあまりに酷ですから、「自分で公開した場合」(や、意に反する公開をされてしまった場合)は、公開から1年以内の出願であれば、「新規性喪失の例外」適用が認められます。
しかし、出願時に行うその証明が、とても面倒だったんですね。「最初に公開(して新規性が喪失した)」行為を申告するのは当然だとして、出願前に「他に」公開した行為も、すべて出願時に証明書で申告する必要があったんです。
たとえば、見本市に意匠(の物品)を出品して、最初に新規性が失われた→その様子を、自身のさまざまなSNSでも公開した…という場合、その「SNS」投稿も全て、申告が必要でした(一つでも漏れていると、「例外適用」が認められず、出願は新規性喪失により「拒絶」となってしまっていたのです)。
しかし、これはさすがに批判も多く、今回の法改正(2024年1月1日より施行済!)により
「最も最初に、自分で公開した行為」さえ証明すれば、OK
つまり、その後の自分での公開にも、例外が適用されるようになりました(なお、最初の公開日に、複数の方法で公開した場合は、それのうちの1つを証明すればOK)。
詳しくは特許庁の特設サイトもご覧ください。
https://www.jpo.go.jp/system/design/shutugan/tetuzuki/ishou-reigai-tetsuduki/index.html
「うちの会社の新商品のデザインについて、意匠登録やってみたいんだけど、公開(発売とか、発表とか…)から、まだ1年以内だっけ?」という方、ぜひ最初の公開日をサーチの上、すぐご相談ください。
★2. 【商標(2024年4/1以降出願が対象)】
氏名の商標の登録の要件緩和
弊所のこちらの記事をご参照ください。
【知財キホンのキ】2024年4月法改正施行!「氏名」の商標登録がしやすくなります
https://onion-tmip.net/update/?p=1860
なお、氏名・芸名の商標登録というと、アーティストや、著名なデザイナー、著作がある人などのことかな..と思われるかもしれませんが、
「ビジネスネーム」を使用されている方も、対象になってきます。
特に、ご自身の会社(法人)をお持ちの方であれば、法人名義で出願すれば、本名を公開することなく、ビジネスネームの商標登録にトライできますから、ぜひご検討ください。
★3. 【商標(2024年4/1以降出願が対象)】
「コンセント制度」の導入
「商標登録は、早い者勝ち」という大原則は、みなさんご存じかと思います。
しかし、この「コンセント制度」とは、ある意味、その大原則をすこし柔軟にして、
「たとえ重複する商品・サービスの範囲に、類似する先登録商標が存在していたとしても、商標登録に道を開く」改正
なんです。そのカギになるのは、制度のタイトルどおり
「コンセント」=先登録商標の権利者の”承諾”
です。では、具体的に、どのようなケースで、どのような承諾があれば、”柔軟”に判断されるのか。こちらも「商標審査基準」が公開されましたので、そちらに沿って、解説したいと思います。
まず、なぜこのような制度が導入されるかですが、諸外国・地域においては既に、「他人による先行登録商標」と同一又は類似する商標であっても、先行登録商標権者の同意(コンセント)があれば、後行の商標の併存登録を認める「コンセント制度」が導入されているところが多かったのです。
一方、日本では、長年議論されながら、導入が見送られてきましたが、
中小・スタートアップ企業等による知的財産を活用した新規事業での「ブランド選択の幅を広げる必要性」や、国際的な制度調和の観点から、コンセント制度の導入ニーズが高まっており、今回ついに導入が決まったものです。
ところで、それぞれ異なる権利者に、重複する範囲で「類似する商標」の登録を認めるとすると、一番問題になるのは
「需要者(消費者や取引者)が、(誤認・)混同してしまうおそれがある」
という点です(日本での導入に時間がかかったのも、この誤認・混同のリスクを重視したためです)。混同は、需要者にも不利益になりますし、(先行登録商標の)商標権者のブランド力を守る点でも、避けなければいけません。
そこで今回の日本のコンセント制度では、
先登録商標の権利者の業務に係る商品又は役務との間で混同を生ずるおそれがないこと
が必要となります。逆にいうと
先登録商標と同一の商標(縮尺のみ異なるものを含む。)であって、同一の指定商品又は指定役務について使用するものは、原則として混同を生ずるおそれが高いと判断されますので、登録は認められません(←つまり「コンセント制度」の対象外)。
では、「混同を生ずるおそれがないこと」は、とのように判断されるかというと、例えば、
① 両商標の類似性の程度
② 商標の周知度
③ 商標が造語よりなるものであるか、又は構成上顕著な特徴を有するものであるか
④ 商標がハウスマークであるか
⑤ 企業における多角経営の可能性
⑥ 商品間、役務間又は商品と役務間の関連性
⑦ 商品等の需要者の共通性
⑧ 商標の使用態様その他取引の実情
のような、両商標に関する具体的な事情を総合的に考慮して判断されます。
上記のうち①~⑦までの事情は、従来よりある商標法第4条第1項第15号(他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標)の審査基準をそのまま踏襲していますが、⑧の「商標の使用態様その他取引の実情」については、今回新たに審査基準に示されたものとなります。
ここで、⑧商標の使用態様その他取引の実情とは、例えば、以下a~g次のような事項が考えられます。
a.使用する商標の構成
b.商標の使用方法
c.使用する商品等
d. 販売・提供方法
e. 販売・提供の時季
f. 販売・提供地域
g. 混同を防止するために当事者間でとることとされた措置
これらの事項を明らかにする証拠の提出がある場合は、その内容を考慮するとされています。
例えば「c.使用する商品等」ついては、以下のようなケースが審査基準に挙げられています:
*先登録商標を指定商品「コンピュータプログラム」の中で商品「ゲーム用コンピュータプログラム」にのみ使用し、
他方は出願商標を商品「医療用コンピュータプログラム」にのみ使用している
*一方は一定金額以上の高価格帯の商品にのみ使用し、
他方は一定金額以下の低価格帯の商品にのみ使用していること
これらの事項について、混同が生じないことを肯定的に判断できるような証拠を出願人が提出した場合、その内容が考慮されて判断されます。
また「混同を生ずるおそれがないこと」の時期についてですが、査定時を基準として、査定時現在のみならず、
「将来にわたっても混同を生ずるおそれがない」
と判断できることが必要になります。
いままでに挙げた、両商標に関する具体的な事情には、査定後に変動することが予想されるものが含まれており、査定後に変動し得る事情に基づいて併存登録された場合は、将来的な混同が否定できなくなってしまいます。そのため、将来の混同のおそれを否定する方向に考慮することができる事情は、上記事情のうち、「将来にわたって変動しない」と認められる事情であることが必要となります。
そして、肝心な先登録商標の権利者のコンセント、つまり”承諾”の「タイミング」ですが、
承諾は、査定時(審査の最終結果を通知する時点)における承諾が必要
となります。つまり、審査が終了するまでの間に承諾が撤回されてしまった場合は当然対象となりません。
本記事公開の2024年3月22日時点で、特許庁の具体的な運用を定める商標審査便覧が未公表であり、実際の審査が始まり事例が積み重なることによって見えてくる点も多くあるため、現時点で「このようなケースでしたら認められますよ」といったものをご案内することは叶いませんが、
先登録商標の権利者からの承諾を得られるケースにおいては、たとえ類似であっても並存して登録が認められる可能性が新制度によって開かれたこととなりますので、いままで先願の存在により登録をあきらめていたものについても、4月1日以降の出願に向け、まずはご相談をいただければと思います。