商標を専門とする弁理士の立場からは、商品やサービスの”目印”として使用するもの、具体的には、文字、図形、記号、立体的形状 等については、
いち早く商標登録出願をすることで、商標権を取得しましょう
と、常々お伝えしているのですが、
【知財キホンのキ】年末にあらためて考えるー商標登録の意義とは?
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さまざまな理由から、
「すぐには商標登録(出願)ができない、する気にならない、したくない」
という事業者の方もいらっしゃるかと思います。
それでは、我々商標弁理士としても、
「確かに、商標出願を急がなくてもいいかな…」
と判断できるケースはあるのでしょうか?
その判断のカギとなる、3つのファクター:
①どんな商標か
②どんな思いを商標に託しているか
③どんなビジネス形態か
を意識しながら、考えてみたいと思います….
<商標出願を急がなくてもいい?ケース1 >
①「造語」の商標 かつ ②「いつ変えてもいい」商標 かつ③「小規模BtoB」
まず、商標登録出願をしないということは、(指定する商品等の範囲で)その商標を独占的に使用できる「商標権」を取得しない、ということになりますから、
・その商標が、他の人(の登録商標)と、同一か類似にならない可能性が高いこと
が求められます。そう考えると、文字商標の場合でいうと、「その文字が、他の人が使う可能性が極めて低いもの」であることが必要です。
そうなってくると、自分で思いついた、そして他の人はまず思い付かないであろう
「造語」から成る商標
は当てはまるかなと思います。
また、同じような観点でいえば、このケースの変形として、
<商標出願を急がなくてもいい?ケース1’(ダッシュ) :>
①「日本ではマイナーな外国語」の商標 かつ ②「いつ変えてもいい」商標 かつ③「小規模BtoB」
なども当てはまるかと思います。
ただし、たとえ造語やマイナーな外国語の商標だとしても、当てはまるのは②番目のファクター(どんな思いを商標に託しているか)が、
「いつ変えてもいい」商標であるという要件と、あくまでセット
である場合です。どういうことでしょうか。
いくら「造語」または「マイナーな外国語」であっても、他の事業者と、使用する商標がかぶる可能性は、ゼロにはなりません。また、全く同一でなくても、商標権は「登録商標の類似」の範囲まで及びますから、「同一又は類似の商標」を、重複するビジネスの範囲で、他人に先に商標登録されてしまう可能性は、常にあるわけです。
そして、商標権の権利行使で代表的なものは、
「他者の使用の差し止め」です。
商標権はとても強い権利ですので、「登録商標とは知らなかった」という抗弁は認められません。また、先に使用している者に与えられ得る「先使用権」(商標法32条)も、認められるための要件はとても厳しいものです。従って、
商標権者から「使用しないで」と言われたら、ほぼ、従わざるを得ません。
従って、もしそうなったときに、
「ああ、使うなと言われたときは、別の商標に変えるからいいですよ」という、使用されている商標にあまりこだわり・思い入れがないことが必要になるわけです。
もちろん、これは感情的な話だけではなくて、
「商標の変更に費用があまりかからない」こと
が要件になってきます。次のファクター(③「ビジネス形態」)とも関連する話ですが、たとえば、ウェブやSNS上で使用している分に関しては、あまり費用をかけずに変更できるかもしれません。しかし、これが「商品」にプリントされていたらどうでしょう。廃棄、そして新しい商標への変更のための費用は、大きなものになる可能性があります。物理的な広告物(看板、印刷したチラシ、社員分の名刺等)も同様ですね。
さらに、「お金でなかなか解決できない」問題があります。使用を差し止められるまでに獲得してきた
「ブランド力の喪失」
です。商標の変更によって、これを失うことになりますから、これに耐えられるか、は大きなポイントです。
そう考えると、ケース1のもう一つの変形
<商標出願を急がなくてもいい?ケース1’’(ダッシュダッシュ) >
①「造語」又は「日本ではマイナーな外国語」の商標 かつ ②「短期間しか使わない」かつ③「小規模BtoB」
もありうると思います。短期間しか使わないことが決定的であるということは、つまりブランド力を積み重ねることをもともと想定していないわけですし、実際、商標登録出願から登録(=権利発生)まで、およそ1年程度はかかるわけですから、それまでに使用が終了してしまうのであれば、出願に積極的にはなれないですよね。
ただ、このこれらの「使うなと言われたら変える」「そもそも短期間しか使わない」場合でも、次のセット要件はすごく重要になります。
③ビジネス形態が「小規模BtoB」であること、です。
個人事業主、一人又は少人数の企業でいらっしゃる場合、「社名や屋号、提供するサービス名、それらにまつわるロゴ」等、商標登録の対象となるもののブランド力以上に、事業主や社長様の「個人(名)」への信用・信頼が勝っている場合もあります。そうした場合であれば、「使っていた商標を、急に変更することになっても、それほど影響を受けない」かもしれないからです。
また、商標を「短期間しか使わな」くても(②のファクター)、その間に他者の商標権侵害をしてしまうリスクもありますので、たとえばビジネス形態が、
「(短期間でも)大量に製造・販売する商品に使用する」商標
である場合には、損害賠償のリスクも大きいため、むやみに「商標出願しなくてもいいですよ」とは申し上げられません
(←そのように大きな成功を納めた場合は、「また販売したい!(=商標の継続使用)」となる可能性も十分ありますしね)。
さて、変形パターンも含めて、商標登録しなくてもセーフかな?と思える「ケース1」をご紹介してきましたが、次のケース2はどういうものかというと….
…正直、ケース2以降は思いつかなかったんです。
というのも、
ケース1の要件のうち、一つでも満たさなければ、それは「商標登録出願をすぐ検討したほうがいい!」
ケースになってしまうからです。
たとえば、②「いつ変えてもいい」又は「短期間しか使用しない」商標 かつ③「小規模BtoB」
だったとしても、その使用する商標(①のファクター)が、「造語」でも「マイナーな外国語」でもなかったら、
「他者の登録商標と同一又は類似であるリスク」=「商標権侵害のリスク」が、飛躍的に増加してしまう
からです。
たとえば、①(どんな商標か)のファクターが、「ローマ字3文字から成る商標」だったとしましょう。これは、造語等の逆で、他者と使用がかぶる可能性が非常に高いものです(アルファベットが26文字→ 26 x 26 x 26しかパターンがないって、かなり選択肢の低い選択物です)。
仮に、使用する商標等の分野で、まだその「ローマ字3文字」が商標登録されていなかったとしても、今後、他者に先に登録されるリスクが極めて高いといえますので、そうなるといくら②「いつ変えてもいい」かつ②「小規模BtoBにしか使用しない」のだとしても、「商標登録は急がなくてもいいんじゃないですか?」とは申し上げられません。
あるいは、①造語(やマイナーな外国語)の商標を、③小規模BtoBにしか使用しないケースだとしても、②「このネーミング(文字商標)には、すごく思い入れがあるんですよ。絶対変えたくないですね」という場合などは、
使用する範囲で「商標登録」をしない限り、使用の独占性は担保されません。
逆に、無事に商標登録できれば、何度でも更新登録が可能(※10年ごと) ですから、半永久的にネーミングを守ることが可能になります。
最後に、①造語(やマイナーな外国語)の商標 かつ ②「いつ変えてもいい」商標を、③「個人経営の飲食店」の商標(店名や、商品名)として使用している場合はどうでしょう。
実際、「うちはこじんまりとやっているお店で、経営拡大するつもりもありませんから、商標登録不要でしょう?」とおっしゃるケースは多いです。
しかし、こうしたお店は、小規模だとしても「BtoB」ではなくて、「BtoC」ですよね。対象としている顧客は不特定多数です。そして、たとえ店主様(のお人柄やお料理)が魅力でお客様がついているとしても、そうしたお客様は「店名」で呼ばれることが多いのではないでしょうか。
そうすると、明らかに、素敵なお店に店主様の努力で獲得したブランド力は、その店名=商標に積み重なっています。そんな名称を、
全く異なる第三者が「イメージがいいから、商標登録しよう」と考える可能性は、決して低くありません。
そうなると「早い者勝ち」で、お店の名称との同じ又は類似の名称を、第三者が商標登録してしまった結果、(こじんまりとやっているお店であるにもかかわらず)商標権を行使=使用の差し止めをされて、店舗名を変えざるをえなくなるわけです。
「こじんまりとやっているから、商標登録はいらない」と考えるのではなく、
「こじんまりとやっている事業者でも、商標登録を先にすれば、あとからどんな大手の事業者がやってきても、商標権で守られるのだ」
という視点で、商標登録をご検討いただければと思います。
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「商標登録をしなくてもいいケースがあるか?」と考えた結果、逆に「商標登録の重要性」を再確認する内容となってしまいました。弊所の下記拙著コラムと併せ、あらためて事業で使用されている商標(文字、図形、記号、立体的形状等)をご確認いただければ幸いです。
【知財キホンのキ】「登録」という言葉が誤解を与えがち⁉️ 商標登録は、営業許可や事業免許でもなく…「知的財産権」を取得する作業です。
https://onion-tmip.net/update/?p=1632
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