ONION商標・弁理士の山中です。

既に少し懐かしい感じがする話題ですが、あえてこのタイミングで、「KIMONO」商標の件について、考えてみたいと思います。
https://www.fashionsnap.com/article/2019-07-02/kim-under-a-new-name/

あらためて整理すると、キム・カーダシアン氏(アメリカのセレブ・スターで、ヒップホップ・アーティスト『カニエ・ウエスト』の妻としても知られる)が参画する「KIMONO Intimates」社が、主にアメリカにおいて、主に下着などの商品のブランド名として「KIMONO」という商標登録出願しているというものでした。

商標登録が認められれば、原則、その商標は、指定している商品・役務(サービス)の名称としては、商標権者が独占的に使用できることになります。

KIMONO (すなわち、着物)という、日本の伝統的な民族衣装かつ文化的象徴の一般名称を、ブランド名として独占しようとする戦略が、世界中から非難を浴び、いわゆる「大炎上」となりました。

このニュースを聞いたときに気になった点としては、
①アメリカで商標登録(連邦登録)が認められるかどうか
は、もちろんなのですが、それ以外にも
②アメリカで使用実績が積み重なっていった場合、どうなるか
③他国への影響はどうなるか
もあったのです。

まず、①(アメリカで商標登録が認められるかどうか)ですが、
これがもし日本だったら「まず、認められない」と言い切れるんです。

商標は、商品やサービス(役務)の”目印”として使用するものなので、もし指定商品が「着物」であれば、その一般名称(のローマ字表記)である「KIMONO」は目印としては機能しません(つまり「識別力がない」)ので、登録が認められません。これは日本もアメリカも同じです。

ただ、「KIMONO Intimates」社が指定していたのは、着物ではなく、ランジェリーやアクセサリー、かばん類などでした。実際、同社は「ランジェリーは着物とは全然特性が異なるので一般名称ではない」と主張していました。

その点、日本だと、そういう主張は通じません。日本の商標法には、「品質等誤認」を生じさせるおそれのある商標の登録を認めない、商標法4条1項16号という条文があるからです。どういうことかというと、もし、”着物”以外の商品に、”KIMONO”という商標を付したら、消費者や取引者は、その商品が着物であると、その商品の品質を間違えてしまう恐れがあります。こうした商標の登録を防ぐものです。

ところが、アメリカだと、日本の4条1項16号のような、品質等誤認を生じさせるおそれに関して、独立して不登録事由とする条文が明確ではありません。そうなると、たとえば「かばん」などの商品については、この登録が認められてしまう可能性も、ゼロではないなと心配していました。

また、仮に商標登録が認められなくても、次に心配だったのは②(アメリカで使用実績が積み重なっていった場合、どうなるか)です。前回のメルマガでもご紹介したとおり、アメリカの商標法は「使用主義」という考え方と、「コモンロー」にのっとっています(→詳しくはこちら https://onion-tmip.net/update/?p=230)。たとえ今回、「KIMONO」の商標登録が認められなかったとしても、KIMONO Intimates社が商標「KIMONO」をランジェリーなどに使用し続け、ブランド力が積み重なってしまえば、商標登録による商標権にも匹敵する「コモンローに基づく商標権」が認められてしまうのではないか?と考えたからです。

しかし、結論から言えば、カーダシアン氏は、世界での炎上っぷりを見るにつけ、最終的には「新しい名称で、(矯正)下着ブランドは立ち上げます」という発表をしたのでした。

商標登録も目指さない(※注 7月28日の時点で、同社によるアメリカにおける「KIMONO」関連の出願は、取り下げはされていないようですが…)、そして商品名も変更して、商品に実際に使用しないという判断により、①と②の心配は、とりあえず回避されたのでした(京都市が同社に提出した、「きもの」「きもの文化」への理解と、ブランド戦略の再考を求める文書も効いたかなぁ)。

残るのは③(他国への影響はどうなるか)です。商標権は、国ごとの出願により、国ごとに発生するものですので(→詳しくはこちら https://onion-tmip.net/update/?p=207)、出願されていない国には影響がありません。同社は、EU(※加盟国に通用する商標があります)への出願が審査係属中で、登録が認められてしまう可能性がありましたが、カーダシアン氏のコメントを信じれば、どこかのタイミングでこれも出願取下げをしてくれるのでしょう。

しかし、最近聞いてびっくりしたのが、「KIMONO」以外の名称に関する同社のブランド戦略です。化粧品の名称に、ハワイの人々にとって神聖な名称、例えば「火山の女神」を意味する”PELE”や、有名な火山”KILAUEA”を使用して、現地で大炎上となっているというのです。同社のこのようなネーミングは、世界各国の文化や、それを育んできた国民やファンたちを傷つける侵略行為のようにも感じます。本来、一企業の戦略に意見を挟むのは僭越ではありますが、このような(戦略という言葉をまとった)姿勢・態度に対しては、一消費者として、そしてブランドやカルチャーの仕事に関わるものとして、厳しい目をもってウォッチしていこうと思います。

 

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