先日、ゲーム好きならもちろん、そうでなくても「商標」を専門とする弁理士である我々には、気になるニュースがありました。

◎「改造「Nintendo Switch」を販売していた男を逮捕。フリマサイトで販売譲渡し,任天堂の商標権を侵害した疑い」(4Gamer.net)
https://www.4gamer.net/games/999/G999902/20250116041/

容疑者は、基盤にチップを組み込み、海賊版でも遊べるように改造して、27種類のソフトをダウンロードしたSDカードとセットにし、フリマアプリで販売していたといいます。「改造機を販売すれば、どのくらい反響があるか知りたかった」と供述しているとのことですが、

今回の行為の逮捕理由が、

「商標権を侵害した疑い」

という点が、少し意外に感じた方もいらっしゃるのではないでしょうか(ちなみに、改造した「Nintendo Switch」の販売譲渡に関わる商標法違反の摘発は全国で初とのこと)。

一般的な感覚として、任天堂株式会社(※以下、記事と同様に「任天堂」と記載させていただきます)の製品に対して、悪意のある技術的な改造を行なっているので、

「特許権」侵害になるのでは?

というイメージを持たれるかたもいらっしゃるかもしれません。実際、任天堂は、ゲームに関する特許権を多く保有していますし、「改造」が特許権を無断で実施しての新たな生産行為となり、特許侵害となる場合もあります。

あるいは、こうした「ゲーム(機)改造」の犯罪に詳しい方だと、

不正競争防止法違反?

をイメージされる方もいらっしゃるかと思います。実際、「セーブデータの改造代行」が同法違反(技術的制限手段を回避する役務の提供)にあたり、逮捕された事例も過去にありました。

今回の事件は、報道されている中に「改造」の詳細がありませんので、「特許権侵害」や「不正競争防止法」違反にあたる行為はなかったのか、あるいは(「著作権侵害」や「意匠権侵害」も含め)捜査・検証も継続して行っているのかは不明なのですが、少なくとも

「商標権侵害」(商標法違反)であることは、明らか

だったということでしょう

(※商標権侵害は刑事事件に該当し、故意に侵害行為を行った場合は10年以下の懲役または1000万円以下の罰金が科される可能性があります。また、懲役と罰金を併科されることもあります)。

では、この改造「Switch」の、どの点が商標権侵害となったのでしょうか。

実は、容疑者は、改造商品について

「Nintendo Switchの登録商標と類似した商標で」販売していた

ということなのだそうです。

どのように類似した商標が、どのように商品に付されていたのかを確認する記事・資料はないのですが、おそらく、

①商品にもともと付されている任天堂の登録商標(文字、記号等)を消したり修正して、

②その登録商標に類似した商標を付して、販売した

のであろうと推測できます。

https://www.nintendo.com/jp/hardware/detail/switch/index.html
※ ↑「Nintendo Switch」の商品情報のリンク。こちらを見ると、少なくとも商品に、
下記の登録商標↓が付されていることがわかります)
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/TR/JP-2017-043535/40/ja

ここで、

②の行為は、商標権侵害の典型

です。
商標権侵害とは「第三者が、他人の登録商標と同一又は類似の商標を、その指定商品と同一又は類似の商品等に使用をする行為」と説明できます。

当然、上記の任天堂の登録商標は、第28類「家庭用テレビゲーム機」等を指定商品として登録されています。

今回は、第三者である容疑者が、容疑者にとって他人である任天堂の登録商標と類似の商標を、その指定商品(家庭用テレビゲーム機)に使用(※商品に付する・付した物を販売=譲渡する)をしたわけですから、まさに商標権侵害ですね。

では、もし、①の行為の上、任天堂の登録商標とは「非類似」の商標を、改造商品に付して販売していたら、どう判断されたでしょうか(この場合だと、②の行為が商標権侵害に当たらなくなります)。

しかしその場合、つまり①(任天堂の登録し商標を消して、販売すること)のみをした場合であっても、商標権侵害に当たる可能性は十分あると考えられます。

参考になるのは、弊所でかつて書いたこちらの記事なのですが、

【本当はコワイ商標の話】なぜ、洋服や靴などのブランド品をカスタマイズすると、商標法違反・商標権侵害になり得るのか?
https://onion-tmip.net/update/?p=1551

ここでも説明している通り、商標権の基本的な「機能」には、

◎出所表示機能

「その商品は、商標の権利を持っているところが大元として、世に送り出しているものですよ」ということを保証する機能。

◎品質保証機能

「その商標がついている商品は、いつも一定の品質を備えていますよ」ということを保証する機能。

があります。これらが害されると、

・取引者や消費者も「誰(が大元)の商品なのか」がわからなくなりますし、
・商標権者のブランド価値も害されるため問題となるため

「商標権侵害」が問われることとなるのです。

つまり、今回の「改造」で、

任天堂の正規商品が保証している品質を勝手に変更しながら、
任天堂の商品から、勝手に登録商標を剥奪・抹消するという、

①の行為だけでも、品質保証機能及び出所表示機能を害したことに該当するとして、商標権侵害のおそれ

は十分に考えられるわけです。

なお、今回の容疑者は、改造行為の違法性は認識していたようですが、商品に付された商品名やロゴマークを少しだけ変えておけば、罪が軽減されるとでも思っていたのでしょうか。いずれにせよ許されない行為ですが、登録商標/商標権も舐めないでほしいなと思います。

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