ONION商標・弁理士の山中です。

この夏は、芸能事務所とタレント/アーティストとの関係をめぐる話題が、連日報道されました。

◎「芸能事務所の問題行為、公取委が例示 TV出演妨害など」(2019年9月3日付、Yahoo!ニュース/朝日新聞https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190827-00000032-asahi-soci

20年以上、音楽業界(の片隅で)育ってきた私も、いろいろと思うところはあるのですが、今回は、弁理士の立場で語るべき「知財」のお話にフォーカスして、解説してみたいと思います。

上記リンクの記事にある、公正取引委員会が例示した、独占禁止法上「問題となり得る」4つの行為の中に、「(3)正当な報酬を支払わない」という行為がありました。独禁法上の「優越的地位の乱用」にあたるおそれがあるとのことですが、さらにその具体的な例として、「タレントの肖像権(※)や知的財産権などを事務所が譲り受けたのに、対価を支払わないことなどを想定」しているとのことです(※「パブリシティ権」といったほうが正確かもしれません)。

知的財産権というと、まずは特許権、著作権という2つの柱がありますが、前者であれば「発明をした人が、特許を受ける権利を得る」し、特に手続きなく権利が発生する後者であれば、「著作物を創作した人が、著作権を得る」というのは大原則です。

ただ、どちらも「職務発明」「職務著作」という概念があります。会社(使用者等)の業務として、その会社の社員(従業者等)が行った発明や、著作物の創作をイメージしてください。前者(職務発明)であれば、「契約、勤務規則その他の定めにおいてあらかじめ」定めておけば、特許を受ける権利は会社のものになるのですが、その場合は、従業者等は「相当の金銭その他の経済上の利益」、すなわち対価をもらえるよ、ということが法律で定められています(特許法35条)。

職務著作の場合はちょっと逆で、「契約、勤務規則その他に別段の定め」がない限り、会社の発意で、従業員が職務上創作し、会社の名義の下に公表する著作物については、会社側が著作者となります(著作権法15条)。

ただ、「職務発明」にしても「職務著作」にしても、これはいわゆる使用者が対象ですから、会社側と雇用関係がなければ、対象外です。(やっと本題に戻りますが)タレントやアーティストが、芸能事務所と結ぶのは、多くの場合は雇用契約ではなく、「専属マネージメント契約」といった、業務委託的なものですから、使用者とはいえないでしょう。つまり、タレントさん達が(発明はなかなかしないまでも、)創作する著作物などは、原則に立ち返ってタレントさん達が著作者・著作権者ということになります。そして、その権利を、タレントさんから事務所サイドが譲り受けるのであれば、(正当な)対価を支払うことは当然で、これをもし、事務所が優位な立場であることを理由に「支払わないよ」としたら、「優越的地位の乱用」という独禁法の問題にふれるおそれがある、ということです。

では、知的財産権の中で、弊所のメイン業務である「商標権」はどうでしょう。例えば、アーティスト(バンド)が元々作り、使っていたアーティスト・ロゴを、(専属マネージメント)契約締結後に事務所が商標登録するとしたら、何かしらの対価をアーティストに支払わなければいけないのでしょうか?

ここは、商標登録でよく誤解されがちなのですが、商標のネーミングを考えた人や、商標であるロゴを作成した人に、「商標登録を受ける権利」のようなものは発生しません。あくまで、誰よりも先に出願した人が、その商標を(選択して)独占的に使用する権利を得るのが、大原則なのです(これが、「剽窃的」、いわゆる”横取り出願” が生まれ得る理由でもあるのですが)。

ですから、必ずしも、アーティスト・ロゴの商標出願・登録をするのが事務所だったとして、その対価をアーティストに払わなければいけないということはないとも言えます。

そうなると、アーティストが自衛するとしたら、事務所と契約をする前に、自分たちで商標登録をし、商標権を取得しておけばいい、ということになります。そうなれば、その商標権(知的財産権の一種)を、もし事務所に譲渡するとしたら、これは対価が払われることになる(、そうでないと「独禁法上問題」になりうる)ということですね。

ただ、現実問題としては、費用もそれなりにかかる商標登録を、アマチュアのアーティストが行うというのはなかなか難しいでしょう。実際に、事務所と契約してから、事務所に費用を出してもらって、商標登録をする、というケースが多いのではないでしょうか(注:アーティスト・グッズ/マーチャンダイジングが、音楽ビジネスにおける重要度を増している昨今、アーティスト名やロゴの商標登録はマストです。が、それはまた別の機会に)。

その際、(音楽業界で育った)弁理士としてぜひお願いしたいのは、「万が一の商標権の取扱い」を、予め事務所、アーティスト(、グループであればメンバー間)で、事前に話し合ってほしい、ということです。つまり「もし、事務所を移籍するときはどうするか」、「もしグループが解散するときは、どうするか」などと言ったことですね。これをしておくことで、先々のトラブルを回避し、(ブランド力がついていれば)大きな資産価値を持つことになる商標権を、活用することができるからです。なかなか、マイナスの未来を想定して話し合うことは、(夢に燃えている)契約タイミングでは難しいかもしれませんが、こういう取り決めをしておくことは「望んでいた以上の大きな成功を収めてしまった」場合などにも、指針となってくれるはずです。

知的財産権と言っても、実は〇〇権によっていろいろと異なること、また、決して遠い話ではなく、ごく身近に存在するものだということさえご理解いただければ、まずは十分かと存じます。具体的なご質問については、ぜひONION商標までご相談ください。

 

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