弊所のコラムでも、何かにつけて「商標登録は早い者勝ち」という原則を、お伝えしてきました。
【参考】【知財キホンのキ】「登録」という言葉が誤解を与えがち!? 商標登録は、営業許可や事業免許でもなく…「知的財産権」を取得する作業です。
http://onion-tmip.net/update/?p=1632
それは決して間違いではありません。しかし!その大原則とは逆に、
「時間が経った方が、登録可能性が上がる」商標
も存在する、というお話しです。もちろん、かなり限定的なケースではあるので、その点はご注意くださいね。
まず、そんな商標を紹介する前に、このコラムの話が関連してきます。
【参考】【本当はコワイ商標の話】商標出願を急がなきゃいけないのは「早い者勝ち」だけが理由ではないです〜登録できたかも!?ができなくなるケースとは?
http://onion-tmip.net/update/?p=2316
「このコラムだって、『商標登録を急げ』って言ってたじゃないか!」と言われそうなタイトルですよね。でも実は、このコラムの中で触れている、商標登録の重要な要件:
「商標の識別力」
という点で、関連があるのです。上記のコラムでは、
もともとは識別力があった商標も、「最初は該当していなかったのに、いつのまにか該当するようになってしまうことがある(「商標の普通名称化」)」というリスクをお伝えしながら、商標出願を急いだほうがいいですよ、と申し上げていたのですが、実は、
「もともとは『識別力がなかった』商標なのに、使っているうちに『識別力が生まれ』て、登録できるようになることある」
というケースを紹介したいのです。
急がば回れで、基本から確認しましょう。商標は、自己と他人の商品又は役務(サービス)とを区別するために用いられるものであるため、他人のそれと区別できる力(識別力)がない商標は、登録を受けることができません。
では、具体的に識別力がない商標とはどういうものなのか。商標法では3条1項各号(下記)に挙げられています(←これらのどれか1つに該当すれば、拒絶となります):
1号) 商品又は役務の普通名称のみを表示する商標
2号) 商品・役務について慣用されている商標
3号) 単に商品の産地、販売地、品質等又は役務の提供の場所、質等のみを表示する商標
4号) ありふれた氏又は名称のみを表示する商標
5号) 極めて簡単で、かつ、ありふれた標章のみからなる商標
6号) その他何人かの業務に係る商品又は役務であるかを認識することができない商標
(それぞれの詳しい説明や具体例などは、こちら)
https://www.jpo.go.jp/system/trademark/shutugan/tetuzuki/mitoroku.html
【参考(弊所コラム)】【本当はコワイ商標の話】商標の「簡易検索」の落とし穴!早いもの勝ちと言われる商標登録の「誤解」とは?
https://onion-tmip.net/update/?p=1334
しかし、この商標法3条には、実は「2項」があり、このように記載されています:
2 前項第三号から第五号までに該当する商標であつても、使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるものについては、同項の規定にかかわらず、商標登録を受けることができる。
(※赤字は筆者)
つまり、もともとは識別力が認められない商標であっても、「使用をされた結果」、識別力がある(=需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができる)状態になった商標は、登録が認められる、ということなのです。
これは、具体的な例を挙げたほうがいいですよね。
1年中おいしいんですが、これから暑い時期にはなおさら食べたくなる、こちら
井村屋さん(井村屋株式会社)の「あずきバー」です。
この名称は、「アイスキャンディー」などのお菓子の商標としては、「あずき(小豆)を使用した棒状のアイスキャンディー」ほどの意味を思わせますよね。つまり、単に商品の品質等を表示する商標に過ぎないということで、前述の商標法3条1項3号該当として、一旦、拒絶査定となったのです。
しかし、拒絶査定に不服があるときは、所定の期間内であれば「拒絶査定不服審判」を請求することができます。さらに、審判の結果(審決)でも登録が認められない場合は、知財高裁に「審決取消訴訟」を提起することができます(※被告は特許庁になります)。
こうした審判、訴訟を通じ、井村屋さん(と代理人)が主張したのが、まさに「商標法3条2項」該当性なんですね。「要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができる」ようになっているという主張として、以下の事実・証拠を挙げました:
①販売数量が平成17年度に1億3700万本,平成19年度に1億7700万本,平成21年度に1億9700万本,平成22年度に2億5800万本であること
②テレビコマーシャルの放映料が毎年1億2000万円を超えていること
③「あずきバー」でインターネット検索を行うと,多数のウェブページで本願商標が
原告の製造・販売に係る本件商品を意味するものとして使用されていること
④原告と直接の関係のない著者より,「あずきバーはなぜ堅い?」との表題の書籍が出版されていること
これらが総合的に考慮された結果、拒絶査定→拒絶査定の維持審決が取り消され、再度の審判の結果、拒絶査定は覆されて、登録に至ったのです。
登録5580635号「あずきバー」【標準文字商標】
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/TR/JP-2010-052888/40/ja
確かに、ユーザー(需要者)としても、もはや「あずきバー」と聞いたら、井村屋さんのものしか思い浮かべない状況で異論はないですよね。これは上記のような、販売実績や広告実績によって、周知・著名となり、井村屋さんの商標として「識別力」を獲得した、という結果によって商標登録が認められたわけです。
ちなみに、文字などを含まない、純粋な形状だけの「立体商標」も、最初は必ず商標法3条1項3号の拒絶理由がきますので、登録を認められるためには、「3条2項」に該当することを認められないと登録に至りません。
【参考】【知財キホンのキ】「立体商標」って何? どこがすごいの!?
https://onion-tmip.net/update/?p=723
ただ、こうした例を聞いて、「じゃあ、今は識別力が認められないかもしれない商標だから、もっと使用してから商標登録出願するか!」と思われるのは、ちょっと危険すぎる考え方です。
まず、3条2項に該当するぐらい識別力がある状態というのは、
「全国的な周知性」
が求められます。上記の井村屋さんが提出された事実を見ても、販売も宣伝も、全国的にかなりのレベルの展開をしていますよね。
そして、実は井村屋さんも、「あずきバー」については、
パッケージ(図形商標)や
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/TR/JP-2005-013748/40/ja
ロゴマーク(図形要素のある文字商標)
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/TR/JP-2010-052887/40/ja
については
先に出願し、商標登録を受けていた
のです。これらは、前述の「標準文字商標」としての「あずきバー」とはことなり、最初から図形部分に識別力が認められる(ロゴマークについても、書体の特殊性や、文字の配置と文字の大きさの違いなどによるデザイン性に、識別力が認められた)ため、もっとスムーズに商標登録を受けていたんですね。
パッケージやロゴマークという、「商品の目印」については商標権を獲得し、安全に商品を展開しながら、販売・宣伝実績を積んで知名度を挙げ、ついには(ロゴやパッケージによらず)普通の文字による「あずきバー」のみでも、他の商品との区別がしっかりできるよ、というところまで識別力を獲得=商標登録を勝ち取ったわけです。
したがって、商品やサービスの名称=商標として選んだ文字が、
どうも識別力が弱いぞ、でもどうしても使いたいな、有名になるまで使ってやるぞ!
という場合でも、
*図形と組み合わせたロゴマークなど、登録が認められやすい商標は、先に登録しておく
*その上で、(登録が認められた商標を付しながら)商品等の販売、広告の宣伝(※)の実績を積み重ねる。
※必ずしもTVCM、という時代ではありませんが、ネット広告であれば、全国の、幅広い年齢層のオーディエンスに、大量にリーチしている証拠が求められるでしょう。
*その過程で、標準文字で出願する。が、審判や訴訟など、費用と長い年月をかけてでも、登録を目指す…という、
かなりの覚悟と労力が求められる
わけです。
商品やサービスのネーミングをする際に、ぜひこの商標法3条2項の存在(と、適用の難しさ)をご考慮いただければと思います。
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