ONION商標・弁理士の山中です。
技術革新等に伴い変化しつづけるエンタメ業界。
そんな時代だからこそ、拠り所とすべきは「著作権法」ですが、「法」に対していきなり細かいところをつつくのではなく、「その全体や構造、考え方を『ざっくり』学んでしまうことが近道だ」という趣旨でご紹介する連載、その第17回です。
ここのところ、著作権の「制限規定」についてご紹介しています(「制限規定」とはなんぞや、はこちら)が、
第7回「他人の著作物を使っていいケースとは?― 著作権の制限規定(その1:概要と『私的使用のための複製』)」
https://onion-tmip.net/update/?p=1192
中でもここ数回は、
【デジタル時代の?制限規定】
についてご紹介しています。
前回第16回では、平成30年(2018年)に改正された、
著作権法30条の4(※以下「新30条の4」といいます)の位置づけをざっくり整理しました。
第16回「他人の著作物を使っていいケース?― 著作権の制限規定(その10:「デジタル時代の?制限規定②」)
https://onion-tmip.net/update/?p=3437
今回はその続きとして、
「著作権法30条の4と、生成AIの関係」
にしぼって解説したいと思います。
★1. そもそも論〜生成AIが行うことと著作権の関係
生成AI(Generative AI)とは、
「大量に学習させたデータをもとに、テキストやコンテンツなどの新しいコンテンツを自動的に生成する機械学習の手法」
などと説明されます。
ここで「大量に学習されるデータ」には、当然、文章(言語)、画像(美術)、音楽等々の「他人の著作物」が対象になりますよね。
そして、この「学習」(AIによる深層学習=ディープラーニング等)の過程では、他人の著作物をコピーして取り込むことになります。つまり、少なくとも「複製権」の問題が生じます。
また、学習データを集めたり、サーバー上で取り扱ったりする仕組み次第では、「公衆送信権」など、他の著作財産権が問題になる場面も出てきます。
つまり、生成AIの学習段階は、ざっくり言えば「他人の著作物の利用そのもの」であり、著作権法上の整理が必要になるわけです。
ここで、他人の著作権を「制限」する規定がなければ、著作権侵害となってしまうところ、
日本では、平成30年(2018年)の改正で
「新30条の4(第2号)」という制限規定が導入されたので、
ざっくり言えば、
他人の著作物の大量の学習は「セーフ」
となったわけです(もちろん、条文上の要件を満たす範囲で、という話ですが)。
これは、AI開発やデータ利活用を萎縮させない、という政策的な判断が背景にあると考えられます。
★2.条文を読む〜新30条の4第2号「情報解析」とは何か
前回「第16回」にも新30条の4の条文は紹介したのですが、なかでも「生成AI」に関連する部分のみ、あらためて引用してみますね。
(著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用)
第三十条の四 著作物は、次に掲げる場合その他の当該著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合には、その必要と認められる限度において、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。
一 (略)
二 情報解析(多数の著作物その他の大量の情報から、当該情報を構成する言語、音、影像その他の要素に係る情報を抽出し、比較、分類その他の解析を行うことをいう。第四十七条の五第一項第二号において同じ。)の用に供する場合
(以下略)
新30条の4は、柱書で
「著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用」(いわゆる「非享受利用」)
という要件を広く定義しつつ、1号から3号で典型的なケースを例示しています。
生成AIとの関係で中心になるのが、この
2号の「情報解析の用に供する場合」
です。
そして、飛ばしてしまいましたが、上の条文2号のかっこ書の定義部分を見ると、この条文が「AIによる深層学習(ディープラーニング)・機械学習」等も対象にしていることが、なんとなくイメージできますよね。
(多数の著作物その他の大量の情報から、当該情報を構成する言語、音、影像その他の要素に係る情報を抽出し、比較、分類その他の統計的な解析を行うことをいう。以下略)
※取消線及び赤字は筆者
という定義は、まさに「大量のデータを入力して処理する」AI学習のイメージに近いものです。
「統計的な」が消えたことの意味
ここが今回のポイントです。
実は、新30条の4第2号のベースになった、旧47条の7「電子計算機による情報解析のための複製等」という条文では、、敢えて”残して取消線”をいれた、「統計的な」という文言が、「(電子計算機による)情報解析」の定義に入っていました。
しかし、新30条の4の条文では、その「統計的な」という文言が削除されたのです。
この変更は、地味に見えて、実はかなり重要です。
というのも、「統計的な」という限定が残っていると、たとえばディープラーニング等の情報処理がすべて「統計的な解析」と言い切れるのかどうか、という議論が起き得るからです。
そこで、あえてその限定を外すことで、将来の技術発展も含めて受け止められる形にした――すなわち、ディープラーニング等も含めて「情報解析」と整理しやすくした、というのが条文の狙いと考えられます。
「情報解析」は柱書の要件(非享受目的)と矛盾しない
なお、柱書との関係をあらためて確認しても、「情報解析の用に供する」場合というのは、
著作物を利用しているものの、その著作物を構成する断片的な情報を利用しているに過ぎない
=著作物の本質(思想・感情)を「享受」する目的ではない
という整理になります。
つまり、2号は柱書の例示として、辻褄が合っているわけです。
「いずれの方法によるかを問わず」の意味
さらに、新30条の4では、柱書で
「いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。」
という書き方がされています。
これは、(権利制限の対象となる行為が限定されていた)旧47条の7よりも、条文上はより柔軟な書き方になっていると言えます。
この点でも、「AIによる深層学習等」が制度上は行いやすくなった、と理解されることが多いです。
なお、営利/非営利目的か否かも、新30条の4の要件にはなっていません。
★3.日本は「機械学習パラダイス」なのか?〜条文が許していないこと
ここまで見てきたように、新30条の4は、生成AIの学習段階において重要な役割を持つ条文です。
そして、新30条の4は、他国の著作権法と比較しても、セーフとする機械学習等の幅がかなり広いものだ、と言われています。
たとえば、他国では、
* 対象が「非営利目的」の利用に限られている
* 利用行為が限定的(複製のみ、等)
* 違法にアップロードされたコンテンツの学習は対象外
といった形で、著作権法の要件がより厳しく設計されていることが多い、という話があります。
こうした日本の新30条の4の「セーフとなる行為の幅の広さ」から、日本は”機械学習パラダイス”か!?などと言われることもあります。
ただし、新30条の4があれば「なんでもOK」ではない
しかし、新30条の4の条文を見るだけでも、「なんでもOKってわけじゃないよ」ということがわかります。
◎「非享受利用」目的に限定されているのだから、同時に「享受利用」目的も併存されるときは、対象外。
◎柱書「その必要と認められる限度において(〜中略)利用することができる。」、
柱書但書「当該著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。」
→どちらも抽象的な表現ですが、後者でいえば、「著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし、著作権者の著作物の利用市場と衝突するか、将来における著作物の潜在的販路を阻害するかという観点」から判断されるといわれています。例として挙げられるのは、「大量の情報を容易に情報解析に活用できる形で整理したデータベースの著作物が販売されている場合に、当該データベースを無断で情報解析をする行為」などです。
さらに、条文から離れた観点もあります。
◎「利用規約で学習禁止と書かれていた場合に、それでも30条の4でセーフと言えるのか」
という点も、実は意見が分かれています(いわゆる「オーバーライド」)。
「オーバーライド」(新30条の4で「利用セーフ」とされているケースでも、著作権者が「利用不可」としていた場合)の可否は、意見がわかれている。
★4.誤解してほしくないこと〜新30条の4は「学習段階」の話
そして何より、誤解してほしくないのは、
新30条の4は、生成AI等のサービスにおいて、あくまでも著作物の「学習段階」の利用を、ある程度OKにする制限規定
であって、
「生成AIで生成されたモノ(アウトプット)」についての、著作物性や利用、他者の著作権との交錯は、全く別の話
という点です。
つまり、生成AIが、どのようなアウトプットを生みそれが著作権法上、どう扱われるのかという点については、別の問題が立ち現れてきます。
そこでは、
・著作物性はあるのか
・誰の著作物と評価されるのか
・既存の著作物との関係はどうなるのか
といった、より実務的で、かつ判断が分かれやすい論点が出てきます。
次回は、この「生成AIのアウトプット」と著作権法の関係について、構造を意識しながら、ざっくり整理してみたいと思います。
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