ひとつのブランド(文字=名称や、ロゴマーク)を、複数の商品等に利用している事業者の方で、
「うちはしっかりブランドの商標登録をしています」
と伺い、いざ登録番号を伺ってその内容を拝見すると、
第35類 小売等役務のみ
を指定していらっしゃるケースがあります。もちろん、商標登録を一切していない方よりも、ブランド保護について対策を取られている点においてリスペクトなのですが、場合によっては、
「小売等役務」での登録だけでは不十分、もっといえば「間違っていて危険」
というケースも少なくありません。
ではまず、この指定役務は本来どのように活用されるべきものなのか、制度導入のところからご説明しましょう…
<そもそも「小売等役務」の目的・対象とは何か?>
「小売等役務」というのは通称みたいなもので、正式には、
第35類に分類されている「◯◯◯の小売又は卸売の業務において行われる便益の提供」
という指定役務です(※◯◯◯の部分には、取扱商品を具体的に記載します。したがって、さまざまな種類の”小売等役務”が存在することになります)。
この制度は、平成19年(2007年)4月1日からスタートしたもので、小売業・卸売業の皆さんの「ブランド」を適切に保護するために、導入されました。
たとえば、「スーパー」という小売の業態をイメージしてください。さまざまな会社/ブランドの、さまざまな種類の商品を取り扱っていますよね。そして、みなさんにもお気に入りのスーパーってあると思うんです。その主な理由はおそらく、
・品揃えがよい
・陳列が見やすい
・店員さんの接客がよい
・店員さんの商品知識が豊富
・価格が(他店よりも)安い…
などだと思うんです。こうしたポジティヴ要素のクオリティ(と積み重ね)により、顧客は集まってくる。これ、明らかに
スーパーが提供する「サービス」について、スーパーのブランド力が積み重なっている
状態ですよね。ではどこにそのブランド力はどこに積み重なっているかというと、
スーパーの名称(店名)や、ロゴマーク、お店のキャラクター(図形、立体)といった「商標」等に
、でしょう。そして、これらの商標登録をする際、指定すべき役務こそ、
第35類の小売等役務
なわけです(ちなみに、スーパーやデパートのように、多品種の商品を取り扱う小売等におては、「衣料品・飲食料品及び生活用品に係る各種商品を一括して取り扱う小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」といった指定役務が認められます)。
この小売等役務制度導入により、スーパー等は、店員さんの制服やショッピングカートなどに付されている自身の商標も、登録商標で保護できるようになりました。
なお、小売等役務制度が導入される前は、大手スーパーなどは、取り扱う商品を個々に「指定商品」として指定いました。これだと区分が多くなり過ぎて、商標登録・維持費用も高額になっていましたし、そもそも上述のとおり、本来小売・卸売業が提供している「サービス」についてのブランド力とは、ズレてしまいますよね。
さて、ここまで「スーパー」という、原則、実店舗・対面販売の小売業を例に説明してきましたが、「小売等役務」で想定する小売・卸売業というのは、実店舗・対面販売に限定されず、「通信販売」なども含まれます。つまり、
「ネット上のECショップ」なども、小売等役務の対象
となるわけです。
<小売・卸売という「サービス」と、販売される「商品」は別物>
ところで、小売等役務制度が導入されている現在であっても、スーパーなどが個々の「商品」(それぞれの区分に分類されている指定商品)を指定して、商標登録すべきケースがあります。それは
「プライベート・ブランド(PB)」
の商品に使用する商標についてです。
ご存知の通り、PBとは、小売店・卸売業者が企画し、独自のブランドで販売する商品ですね。
たとえば、スーパーが売っていて、そしてスーパーの店名(文字)やロゴがついていたとしても、PBは、あくまで(サービスではなく)「商品」ですよね。商品のブランド力(商品の品質などに積み重なる信用)は、スーパーのような小売業という「サービス」のブランド力とはまた別のものです。
たとえば、近年好調さが伝えられる、ローソン(株式会社。典型的な小売業ですが)のPBブランドですが、その新しいロゴマークについては、第35類の小売等役務だけでなく、このロゴマークが使用される多くの商品(それぞれの商品が分類される区分)が、指定されていますね。
登録6970441
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/TR/JP-2024-139500/40/ja
<実際は商品ブランドなのに、小売等役務の範囲だけで商標登録している「リスク」>
もちろん、通販サイト/ECストアであれ、雑貨や洋服などのセレクトショップであれ、本当に自社商品(PB)は取り扱っておらず、小売(・卸売)業のみであれば、そのブランドの商標登録は、小売等役務のみの指定で間違っていません。
一方、問題なのは、
実際は「商品のブランド」なのに、「小売等役務」しか指定していない
というケースなのです。
おそらく、複数の商品の区分を指定していくと、費用がかさむ(たとえ自身で出願したとしても、特許庁に納付する法定費用は、区分ごとにアップしていきます)ことが要因ではないかと思います。
このケースの最大のリスクとはなんでしょうか。それは、
「不使用取消審判を請求されて、商標登録が取り消されてしまう」
かもしれない、という点でしょう。
【本当はコワイ商標の話】 せっかく商標登録したのに、取り消されることがある?(2)
https://onion-tmip.net/update/?p=275
この審判は誰でも請求できますが、主に「重複する範囲で、他人の『同一/類似する先登録商標』の存在が、自分の商標出願の妨げになっているので、(もし使っていないなら)消してしまいたい」という人が請求してきます。
請求されても、3年の間に国内で使用していることを証明できれば、請求は棄却され、取消を逃れます。
ただその際に、
第35類の「小売等役務」の商標として使用しているか
がポイントとなります。つまり、実際は、「◯◯◯の小売又は卸売の業務において行われる便益の提供」という小売等役務の、◯◯◯という商品自体にしか登録商標を使用していなかった場合、登録商標の使用として認められず、請求が認容されて、商標登録が取り消されてしまうかもしれないのです。
<小売等役務は裏技でも万能でもないが…活用はできる>
ただ、上記のようなリスクはご理解いただいたとしても、実際、
「これから使うかもしれない全ての商品の範囲(区分)を指定するのは、厳しいよなぁ」
というケースも、現実的には多くあると思います。そのような場合の出願時の指定では、
以下の①〜③をセットで考える方策をご提案します:
①商標を使用することが確実な「商品」については、該当する区分(の指定商品)を正しく指定する。
②併せて、第35類の各種小売等役務も指定する。その中では、別の区分で指定した商品に加え、「指定していない商品を対象とした、小売等役務」も指定する。
実は、第35類の「◯◯◯の小売又は卸売の業務において行われる便益の提供」という小売等役務と、他の区分の「◯◯◯」という指定商品は、原則「商品と役務が類似する」という判断がなされます(※同一の「類似群コード」というものが振られています)。
たとえば、第35類「被服の小売又は卸売の業務において行われる便益の提供」(被服の小売等役務)という指定役務と、第25類「被服」という指定商品は、違いに類似する、というわけです。
したがって、先に第35類で「◯◯◯」という商品の小売等役務を指定して商標登録をしていおけば、もし他者が、同一/類似の商標を、「◯◯◯」の指定商品(区分)の範囲で出願してきても、拒絶されるわけです。ただし、
③出願〜登録後、実際にその商品についても、登録商標を使用することになったら、すみやかにその商品の範囲(区分)で、新たに商標出願をする
ことまでをセットで考えていただきたいのです。そうしないと結局「取り消されてしまうかも」というリスクを抱えた、不安定な状態での使用となりますし、
実際、その商品について、登録商標の証である「®️」マークもつけられませんし、他者への使用許諾(ライセンス)の権原も存在しないなど、ビジネス上の不利益が多いものとなります。
ONION商標のように、商標を専門とする弁理士は、お客様の事業内容を丁寧にヒアリングし、使用状況・使用計画を考慮しながら、区分選定・出願内容を検討しご提案します。ぜひ頼りにしていただきたい部分です。
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