前号のメルマガでは、「不正競争防止法(通称:不競法)」についてご説明させていただいたのですが、
https://onion-tmip.net/update/?p=518

紙幅が尽きた(ネットなのに!?)ため、今回はそのつづきです。

まず、軽くおさらいです。
資本主義社会において、経済が発展していくために必要な「競争」は、正しく行われる必要があります。そのために、「不正な」競争行為を防止するためにこの法律がありますが、では、その「不正競争行為」とは具体的にはどういうものがあるのかというと、同法2条1項各号にて、以下のように定められているのでした:

①周知表示に対する混同惹起行為(1号)
②著名表示冒用行為(2号)
③商品形態模倣(他人の商品の形態等を模写した商品を、譲渡等する)行為(3号)
④営業秘密不正取得・利用行為等(4号から10号)
⑤限定提供データの不正取得等(11号~16号)
⑥技術的制限手段に対する不正行為(17号、18号)
⑦ドメイン名に係る不正行為(19号)
⑧(品質内容等の)誤認惹起行為(20号)
⑨信用毀損行為(21号)
⑩代理人等の商標冒用行為(22号)

不競法には、他の知的財産権の法律では「〇〇権侵害!」とできない行為について補完する側面もあり、前回は主に、商標法をカバーする部分(上記の①・②)を中心にご説明しました。

では、やっと本編ですが、以下のようなニュースでも、「不競法違反」という言葉を見かけるのはどうしてでしょう。

◎営業秘密取得、検挙最多38人 人材流動化一因か 警察庁(時事通信)
https://www.jiji.com/jc/article?k=2021032500439&g=soc

◎ゲームのポケモン能力、不正に書き換えた疑い 男を逮捕(朝日新聞デジタル)
https://www.asahi.com/articles/ASP24619PP24OBJB00D.html

まず、「営業秘密」については、上記④(同法2条1項4号~10号)に、細かく規定されています。企業の研究・開発で生み出された様々な営業秘密というと、たとえばメーカーにおける製造方法やノウハウ、設計図面のような「技術情報」がありますが、営業活動の過程で生み出される営業秘密といえば、顧客名簿や対応マニュアル、新規事業計画といった「営業情報」が考えられ、後者であればメーカーに限らずほとんどの企業に当てはまるものですよね。そういう重要な秘密を、不正に持ち出したり、あるいはそれが不正に持ち出されたものだと知っていながら取得したり、使用したりすれば、それは「不正」競争行為ということで異論はないと思うのですが、気を付けなければいけないのは、以下の「3つ」を全て満たさないと、同法で保護される営業秘密としては、認められないという点です。

(1)【秘密管理性】秘密として管理されていること
(2)【有用性】有用な営業上又は技術上の情報であること
(3)【非公知性】公然と知られていないこと

勘違いしやすい点としては、「ある企業が、有害物質の垂れ流している!」などといったネガティヴな情報は、たとえその会社が秘密にしていたとしても、それを知った他社が自社の事業に活かすことができるものではないので、(2)「有用性」を満たさないということになります。また、メディアや雑誌などで掲載されてしまった、あるいは特許出願をして「公開された」秘密などは、もう公知ですから、(3)を満たさなくなってしまいます。

そして、難しいけれどもやはり大切なのは(1)です。営業秘密保有企業の「秘密管理意思」が、秘密管理措置によって従業員等に対して明確に示され、当該秘密管理意思に対する従業員等の認識可能性が確保される必要があります。企業にとって重要な秘密でも、それを記載した書類やデータの管理がユルいようでは不競法では保護されないということですね。

続いては、「ポケモン能力改ざん」がなぜ、不正競争行為になるのでしょう?これは、上記の ⑥技術的制限手段に対する不正行為(同法2条1項17号、18号)に該当するものです。もともとは、音楽や、映画(映像)・ゲーム(プログラム)といったコンテンツの複製を制限する「コピーコントロール」や、スクランブル放送などの「アクセスコントロール」と行ったものを指す「技術的制限手段」を、勝手に無効化する手段を配布したり提供したりする行為は、コンテンツ提供事業者が安心して提供することを妨げる「不正」競争行為というわけです。

最近は、これらの条項が改正・強化され、従来から対象であった映像やプログラムに加え、「データ(電磁的記録に記録された情報)」が追加されたこと等により、ゲームソフトのセーブデータを改造するツールやプログラムの譲渡、セーブデータの改造代行、ゲーム機器の改造代行を行うことが不正競争行為と定められました。今回の「ポケモン能力改ざん」は、まさにその対象となったというわけです。

今後も、同法が定める「不正競争行為」は、追加・修正されていくでしょう(削除されるものもあるかもしれませんね)。最初に戻りますが、資本主義社会における経済の発展のため、正しく企業間の「競争」が行われるよう、時代に即して「不正な競争行為」を排除していく大事な役割が、不競法には託されているのです。

 

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