前回、「地域団体商標」についてご説明させていただいたのですが、
https://onion-tmip.net/update/?p=743

紙幅が尽きた(ネットなのに!?)ため、今回はそのつづきです。

まず、軽くおさらいですが、地域団体商標とは、本来なら認められないはずの記述的な商標

「地域の名称」+「商品(サービス)名」からなる文字商標

を、地域ブランド保護・振興のため、特定の団体に、特定の目的のときにだけ、”例外的に”登録を認める制度でした。

さて、前回の記事で説明できなかったのは、その登録が認められ得る「特定の団体」とは、どのような団体なのか、です。

★1.地域団体商標が認められる団体とは?

その地域に根ざした団体のうち、以下の団体(※)の出願が対象となります。

(1)事業協同組合等の特別の法律により設立された組合
ア)法人格を有する
イ)当該特別の法律に構成員資格者の加入の自由が担保されている
例) 農業協同組合、漁業協同組合 等

(2)商工会
(3)商工会議所
(4)特定非営利活動法人(NPO法人)
(5)これらに相当する外国の法人

となっています。
(※なお、上記の他、2017年7月31日に施行された地域未来投資促進法による商標法の特例措置により、一定の条件で一般社団法人も出願できるようになりました。詳しくは地域経済牽引事業の促進による地域の成長発展の基盤強化に関する法律に基づく地域団体商標の登録主体に関する特例措置<一般社団法人による地域団体商標の出願>をご覧ください。)

平成17年度に、地域団体商標の制度が導入されたときは、実は(1)のような団体のみが対象だったのですが、その後、地域ブランドに主体的に取り組んでいる団体として、(2)以下が追加となっていきました。

地域ブランドも、古くから存在する商品等だけではなく、町おこしの一環としても定着した「(B級)グルメ」も、人気の商品等が多く登場しましたよね。。これらを、商工会やNPO法人が権利化して、その使用について管理していきたいというニーズに応えたものです。

例)登録5703819号 「勝浦タンタンメン」(権利者「ONE勝浦企業組合」)
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/TR/JP-2010-082864/4C6DED288B7A806D3687D55318285810ECA479F921686F5E893E4F3CBF499F06/40/ja

例)登録6197115号 「あやせとんすきメンチ」(権利者「綾瀬市商工会」)
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/TR/JP-2016-068944/70FCA7918E30DB360E09F80150374F8E6853C66217B81CC9701AF6E8F33F679C/40/ja

NPO法人による登録としては、
例)登録6078845号 「内藤とうがらし」(権利者「特定非営利活動法人おいしい水大使館」)
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/TR/JP-2016-107448/9CA14B4888563D28FCCADD9A7CC7A0C5FFD4C39619565419EE4787C6782AFA6D/40/ja

こちらの「内藤」とは、「新宿区内藤町周辺地域」のことだそうで、江戸時代、蕎麦人気で薬味として重宝されていた内藤新宿のブランド商品が、一度衰退した後、2013年江戸東京野菜に登録され復活したものだそうです。

ところで、このような「地域団体」が登録した商標は、実際のところ、誰が使えるのでしょうか? 団体に所属しない限り、その商標は使用できなくなってしまうのでしょうか…?

★2.地域団体商標を、使用できるのは誰か?

そもそも、地域団体商標について定める商標法7条の2(1項柱書)には、団体の「構成員」に使用させる商標が、対象であることが定められています。

つまり、団体が主体となってする登録ではありますが、実際は、その団体の「構成員」(たとえば、その団体が組合であれば、その「組合員」)こそ、使用する当事者ということになります。

だからこそ、「事業協同組合」等は、その設立根拠法で、構成員になる資格のある者の「加入の自由」を、担保していることが求められているんですね。

なお、団体名義でも使用は可能ですが、団体「のみ」使用する商標だとしたら、それは地域団体商標の制度の対象とはならないということです。

では、「前からその商標を使用しているけど、その団体に加入しなければ、使用できなくなってしまうのか?(加入したくない)」という人はどうなってしまうのでしょうか。

これも、商標法では、「先使用権」といって、もともと国内で(不正競争の目的でなく)使用をしていた方には、使用をし続けられる権利が与えられ得ることを定めています(同法32条の2)。

★3.地域団体商標の登録要件まとめ

ここまで説明してきた、地域団体商標の登録が認められるための要件をまとめますと、

①地域に根ざした団体(※)の出願であること(※事業組合、商工会、商工会議所、NPO
法人等が対象)

②団体の構成員に使用させる商標であること

③地域の名称と、商品/サービスに関連性があること

④一定の地理的範囲の需要者間である程度有名であること

⑤その商標が、普通名称になっていないこと(※たとえば、「さつまいも」は、地域名+商品名ですが、すでにその商品の普通名称だから、特定の団体による登録は認められません)

というところでしょうか。

★4.地域団体商標のこれから

地域ブランドを守るため、法改正も併せて、普及してきた「地域団体商標」制度。商標を登録するということは、商標権を得るということですから、不正な使用者に対しての権利行使(民事・刑事の両面から)が可能になりますし、コラボ商品などでブランドを普及させていただくときも、その権利に基づく、安定した「ライセンス契約」が可能になるなど、法的なメリットがあります。

さらに、さまざまな登録要件を経て認められた「地域団体商標」としての登録商標は、やはり「お墨付きのある地域ブランド」としてアピールできますから、現在の(その地域での)知名度を、さらに全国的に著名にしていこうという取り組みに、大いに寄与してくれることでしょう。

また、その対象となる団体が拡大されたことで、地域ブランドの保護に活用しやすくなったことは、前述の通りです。

しかしながら、逆に幅広い団体が活用できるようになったことで、地域の複数の団体間で、その「地域名+商品(サービス)名」の取り合いのような事例が起きているというニュースもありました。地域の財産であるその名称が、素晴らしい地域の特産物を後世に、そして全国に伝えていくために、上手に活用されることを期待せずにはいられません。