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技術革新等に伴い変化しつづけるエンタメ業界。そんな時代だからこそ、拠り所とすべきは「著作権法」ですが、「法」に対していきなり細かいところをつつくのではなく、「その全体や構造、考え方を『ざっくり』学んでしまうことが近道だ」という趣旨でご紹介する連載、その第8回です(※かなりゆっくりとしたペースで恐縮ですが、少しずつでも進めていきたいと思います!)。

第6回では、著作者に対して与えられる「著作権」とは、著作物が持つ「財産的価値」を守ってあげるものだ、という話をしました。
https://onion-tmip.net/update/?p=1042
その価値を守るために、独占的に著作物を利用できる権利なわけですが、裏を返せば、他者への利用許諾もできるし、「利用しちゃダメ!」と差し止めることもできる権利なわけです。

しかし、ある一定の場面では、他の人が利用していても、著作(権)者が「利用しちゃダメ!」と言えないように”制限”する規定、その名も

「(権利)制限規定」(著作権法30条〜47条の8)

があります。その理由や目的などの概要を、前回(第7回)では説明しました。
http://onion-tmip.net/update/?p=1192

その前回、制限規定の中でも最初に登場する、「私的使用目的の複製」(30条)を紹介しましたが、今回からはある程度グルーピングしながら、他の制限制度もご紹介していきます。

…といいながら、今回取り上げる32条も、他の条文とはグループ化できないですね。それぐらい、重要かつ論点も多い制限規定です。それは

「引用」です。

(引用)
第三十二条 公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。

(※第2項は省略)

最近、(特に著作権法では)長い条文が増えているので、こういう短めの条文はとっつきやすいですよね。しかし、短いということは、それだけ細かく定められていない→解釈の余地が生じる…という難しさがあります。

また、自分の場合、音楽業界出身なだけに、この条文を理解しづらかった(危うく、誤解するところだった)という事情もありました…

この短い条文の中に、複数の要件が含まれていますが、

①「公表された著作物」(※未公表なら、対象外)

であれば、引用して「利用することができる」とシンプルに記載されていますので、あらゆる支分権が対象(複製したり、上演したり、公衆送信したり…ができる)ということになります。もちろん、そのあとの「この場合において」に該当するケースだけですが。

では、その「この場合において」以降を見てみますと、

②「公正な慣行に合致すること」

かつ

③「報道・批評・研究その他の『引用の目的上正当な範囲内』で行われること」
という、大きくわけても2つの要件があり、これらを両方満たす必要があります。

ちなみに、四十七条の六の第二項というところに、 32条(引用)により著作物を利用することができる場合には、「翻訳」による利用を行うことができることが定められています。しかし、ここには「翻案」はOKと定められていないので、

他者の著作物を翻案(脚色、映画化…etc.)して利用することは、この「引用」の制限規定では、認められない

ということになります。

ここで、自分が「誤解するところだった」と言ったのは、音楽業界だと、「他者の楽曲を一部「引用」(interpolation)して、別の曲を作る」という言い方をするんですよね。そこで、「えっ、日本の著作権法だと、そういうこと自由にしていいケースがあるの?」と勘違いしかけたわけですが、著作権法の理解でいうと、既存の楽曲(公表された著作物)を一部に使っていたとしても、それは別の曲(別の著作物)へと「翻案」するようなものですから、該当しません。

(もっとも、上の③のところでも、引用の目的の例として”報道・批評・研究”とありますから、商業的な音楽への利用というのは、『〜目的上正当な範囲内』にはないと言えるかもしれません。しかし、”報道・批評・研究”はあくまで例示ですから、それに該当しないからといって、必ずしも『〜目的上正当な範囲内』とは言い切れません)。

ただ、上の②「公正な慣行(に合致)」にしても、③「引用の目的上正当な範囲内」というのも、どちらもかなり曖昧というか、該当するかどうかはケースバイケースですよね。

そこで、この条文の解釈というか、要件をより明確にするものとして、長年重宝されてきた最高裁判例が、俗に言う「パロディモンタージュ事件」(最判S55.3.28)で示された基準です。上記の②と③を満たすためには、

(A)「明瞭区分性」
引用文(引用部分)をしっかり線やカギカッコでくくったりして、引用して利用「する」側の著作物と、引用されて利用「される」著作物との”区別を明瞭”にすること

(B)「付従性」
いわゆる「主従関係」ですね。あくまで、引用して利用「する」側の著作物が”主”、逆に引用「される」側は、引用の目的上最小限度の範囲、つまり”従”であること

の両方を満たしていればOK、としたものです。条文だけよりも、だいぶわかりやすいですよね。

ただ、近年の判例は、少し傾向が変わってきています
しかし、「明瞭区分性と付従性」を、ストレートに満たしていないケースでも、本来の条文にあてはめた上で、「引用」として認められるケースも出てきています。

たとえば、知財高裁H22.10.13の「美術品鑑定証書引用」事件の判決では、
美術品の鑑定業者が、ある絵画の鑑定証書の裏面に、その絵画の「縮小コピー」を作成(つまり、複製ですね)、添付したことが、複製権侵害にあたるかどうかについて、前述の「明瞭区分性」と「付従性」に当てはめるのではなく、

「その絵画の著作権者の複製権を利用して経済的利益を得る機会が失われるなどということも考え難い」等を総合考慮すれば、鑑定書の裏面に縮小コピーを添付したことは、「著作物を引用して鑑定する方法ないし態様において、その鑑定に求められる公正な慣行に合致したものということができ、かつ、その引用の目的上でも、正当な範囲内のものであるということができるというべきである。」

と、複製権侵害を否定しました。つまり、32条「引用」に該当するので、絵画の著作権(複製権)は制限される、ということですね。

以上より、上手に使えれば、便利なはずの「引用」ですが、なかなか難しい制限規定です。敢えてまとめてみると、

◎エンタメ業界などで「引用」という表現がされていたとしても、既存の著作物を翻案(脚色、映画化、要約、音楽のインターポレーションなど)は、そもそも「引用」の制限規定(32条)の対象外なので、誤解しないように注意。

◎一方、「公表された著作物を、報道・批評または研究の目的で、明瞭区分性と付従性を満たしながら、引用して利用」していれば、32条の制限規定に該当して、「利用してOK」となる可能性は高い。

◎それ以外のケースでも、32条に該当する場合はあるが、それこそ訴訟の場(著作権侵害で訴えられたときの、反論として)での結論となるので、勝手に判断するのはリスクになる。
→つまり、自分の著作物に、他者の著作物を引用するケースでは、その他者に確認、許諾を取ることが最も安全である。

ということになるでしょうか。それこそ、今回は紙幅の関係(←ネットなのに!)で詳しく触れませんが、引用の仕方によっては、その著作者の著作者人格権を侵害してしまうこともありえます。そのあたりも、引用しようとする「著作物の著作者・著作権者に確認」することで、防げるわけですね。

なお、最後に、上記で省略していた、32条の第2項は、以下のとおりとなっています:

2 国等の周知目的資料は、説明の材料として新聞紙、雑誌その他の刊行物に転載することができる。ただし、これを禁止する旨の表示がある場合は、この限りでない。

次回はこちら →http://onion-tmip.net/update/?p=1567

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