◎ドワンゴ、「ゆっくり茶番劇」について商標無効審決が下ったと報告。確定すればゆっくり関連商標問題はすべて解決へ –(AUTOMATON)
https://automaton-media.com/articles/newsjp/20230724-256856/

ONION商標・弁理士の山中です。

「ゆっくり茶番劇」が、あるYouTuberによって、商標登録されてしまった「事件」に関しては、昨年末に、弊所のコラムでも以下のタイトルで取り上げました。

【本当はコワイ商標の話】年末にあらためて考えるーその商標、誰が、いつ登録すべき?
https://onion-tmip.net/update/?p=1113

このコラムの段階ですら、事件の経緯についてはさまざまなサイトで既に報じられていたので詳しく記載しなかったのですが、

いわゆる「ゆっくり」シリーズとも言える動画配信のカテゴリーの、キャラクターの出所となっているゲーム「東方プロジェクト」や、その動画配信が人気を博して行った動画配信サービス「ニコニコ動画」を運営するドワンゴ社とは、全く無関係の第三者が商標登録をし、その使用(ライセンス)について有償であることなどを発表したところ、各所から反発が広がる騒動へと発展、一旦は「ライセンス料不要」としたものの、反発・炎上はおさまらず、最終的には当該商標権の「放棄」(抹消登録申請)がなされ、商標権が消滅したものです。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/TR/JP-2021-114070/F3A3517B2BE17F2B5A64398A955EDC9F885A39A3B583EC068237E35E0537F034/40/ja

問題となった商標登録がなくなったのですから、それで問題解決!と思いがちですが、ドワンゴ社は、上記の登録に対して、

「無効審判」(商標法46条)

を請求していました。なぜでしょうか。
放棄による消滅だと、最初の登録から消滅までの間は、その商標登録が「有効」なものとして、存在していたことになります。

その点、無効審判の判断結果である「審決」(裁判の結果だと「判決」といいますが、審判の結果は「審決」というんですね)が、「登録は無効とすべき」という無効審決となれば、その確定の効果は、その登録時まで「遡及(さかのぼって)」消滅します。

つまり、今回の登録(商標権)は、存在しなかったものとなるのです。

実際、商標法46条3項に、

3 第一項の審判は、商標権の消滅後においても、請求することができる。

と定められています。
消滅した商標権に対しての無効審判請求は、通常、商標権侵害の争いに起因することが一般的です。たとえば、商標権が存在していた間(登録〜消滅まで)の商標権侵害行為に対する損害賠償の請求がされた場合、請求された側が無効審判を請求して容認(無効審決)されれば、その商標権は「初めから存在しなかった」ことになるので、損害の賠償を請求する必要がなくなるのです。

さて、ちょっと順序が逆になりますが、そもそも「無効審判」という制度は、なぜ必要なのでしょうか。その立法趣旨は、

「過誤による商標登録を存在させておくことは、本来権利として存在することができないものに、(排他独占的な)権利の行使を認める結果となるので、妥当ではないから」

というものです。

今回、ドワンゴ社による、消滅した商標登録への無効審判請求は、商標権侵害で争われているケースではありませんが、はっきりと「(旧商標権者による)『ゆっくり茶番劇』の商標登録は、過誤登録であり、登録されるべきものではなかった」ことを明らかにし、それをしっかり記録に残すという意図でなされたことになります。

さて、無効理由ですが、(登録後に「後発的」に無効とすべき理由となる場合もありますが)、審査時に、本来は登録すべきではなかったものが、審査官による過誤によって登録されてしまうケースが想定されていますので、「無効理由」は、審査時の「拒絶理由」と、ほぼ同様となっています。

今回の無効審判を見ても、請求された無効理由と、それらに対しての判断は、
・商標法3条1項柱書(出願人の使用意思)違反
→これは「使用意思及び予定があった」として、否定されたものの、

・同法3条1項3号及び6号(商標の識別力の有無)の無効理由

→3号(識別力のない「記述的商標」)に該当、
→仮に3号に該当しなかったとしても、「「ゆっくり茶番劇」の語は、本件商標の登録査定時において、動画のジャンル又はカテゴリーの一つを表すものとして、動画プラットフォームの提供者、動画の投稿者及び動画の閲覧者によって、使用され、かつ、認識されていたことからすると、本件商標は、これをその指定役務に使用しても、動画のジャンル又はカテゴリーの一つを表したものと認識させるにすぎないものであるから、需要者が何人かの業務に係る役務であることを認識することができない商標というべき」であり、該当

・同法4条1項7号(公序良俗違反)の無効理由

→「これまで何らの制約もなく、「ゆっくり茶番劇」に関する動画を投稿していた者又は同動画をこれから投稿しようとする者に対して、無用な混乱を招くおそれがあり(現に混乱を招いた。)、このような混乱を招くおそれがある本件商標の登録を認めることは、社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反する」として、該当

というものでした。

この無効審決に対しては、被請求人(旧商標権者)が、審決取消訴訟、を提起もできるのですが、この審決の謄本の送達があった日から原則30日以内と定められているので、その期間内に提起されなければ、無効審決が確定することとなります。

また、ドワンゴ社は昨年、以下の3つの商標を出願していることは、上述の弊所コラムでも触れました:

商願2022-058346「ゆっくり実況」(第41類他)
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/TR/JP-2022-058346/38E6D4A68F27611D86880A08477008DDFC6B9BB1DA33F29228F5C16D035F15E2/40/ja

商願2022-058347「ゆっくり解説」(第41類他)
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/TR/JP-2022-058347/B9901C915DBD000DB779D22828AC2A7DF3B64F5015957F2FC108E232D0548A7B/40/ja

商願2022-058348「ゆっくり劇場」(第41類他)
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/TR/JP-2022-058348/483F154290663E52338C72DDF116AAC584946DAE559B709E8E363FFE635B7016/40/ja

12月の弊所コラム執筆時は、いずれも「審査着手前」となっておりましたが、上記各リンクをクリックするとわかる通り、その後審査により、商標法3条1項3号および6号(識別力がないこと)等の「拒絶理由」に該当することが通知され、それに対して意見書等により反論することなく、この7月に「拒絶査定」となっています。

拒絶査定後も、一定期間は、「拒絶査定不服審判」を請求することが可能なのですが、ドワンゴ社にはその意思はないようで、

もともと、これらの商標は(識別力がもはやなく、誰にも)登録が認められるべきではないことを明らかにすべく、出願されたものということです。

なお、商標法3条1項各号を理由とする拒絶査定だけで、誰にも登録できない商標であることが確定するかどうかについては、以下の記事で紹介した事例からも、「拒絶査定不服審判」の審決を経ないと、確実ではないとの懸念もあるのですが、

【本当はコワイ商標の話】 拒絶された商標登録が、後から他人に登録されてしまうことがある?
https://onion-tmip.net/update/?p=292

今回は、これだけ社会的に問題となった商標の拒絶査定に対し、また無関係な第三者が商標登録出願をすることは考えにくいということで、拒絶査定を持って「識別力なし」であることが認められた、と判断されたものと思料します。

今回は、昨年末のコラムの続報、という意味合いだけでなく、今回のような特殊な事例を介して、むしろ基本的な商標制度や、商標登録の原則について、あらためて考え、ご説明するいい機会となると考え、取り上げさせていただきました。

 

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