ONION商標・弁理士の山中です。

技術革新等に伴い変化しつづけるエンタメ業界。そんな時代だからこそ、拠り所とすべきは「著作権法」ですが、

「法」に対していきなり細かいところをつつくのではなく、「その全体や構造、考え方を『ざっくり』学んでしまうことが近道だ」という趣旨でご紹介する連載、その第11回です(不定期もいいところですが、こつこつ進めています)。

第5回では、ひとくちに「著作権」といっても、それはさまざまな「◯◯権」をまとめたような概念であって、ざっくりといえば

「著作者が、自分の著作物を、自分だけが、独占的に◯◯をすることができる」権利だよ

、という説明をしました。https://onion-tmip.net/update/?p=922

しかし、ある一定の場面では、他の人が利用していても、著作(権)者が「利用しちゃダメ!」と言えないように”制限”する規定、その名も

「(権利)制限規定」(著作権法30条〜47条の8)

があります。こちらを、順を追って解説しています。

第7回:制限規定の理由・目的、「私的使用目的の複製(30条)」
http://onion-tmip.net/update/?p=1192
第8回:「引用(32条)」
http://onion-tmip.net/update/?p=1321
第9回:「図書館関連・福祉関連」(31条、37条・37条の2、43条)
http://onion-tmip.net/update/?p=1567
第10回:「教育関連」(33条〜36条)
http://onion-tmip.net/update/?p=2075

今回ご紹介する制限規定のグループは、

【非営利の上演等(38条)】

です。

「あれ、今回は38条しか紹介しないの?たまの記事なんだから、もっといっぱい紹介しろよ!」と思われてしまうかもしれませんが…

…実はこの条文、第1項から第5項までありまして、これが結構掘り下げがいがあるものですから、今回は38条だけにフォーカスさせてください!

では早速第1項から。

<38条1項:営利を目的としない上演等>

第三十八条 公表された著作物は、営利を目的とせず、かつ、聴衆又は観衆から料金を受けない場合には、公に上演し、演奏し、上映し、又は口述することができる。ただし、当該上演、演奏、上映又は口述について実演家又は口述を行う者に対し報酬が支払われる場合は、この限りでない。


上記の条文に当てはまれば、「権利者の許諾を取らずに、自由に演奏等をしてよい」ということになります(※翻訳とか翻案した上での上演等は、不可です。47条の6より)。

では、この条文に含まれている、当てはまるための「要件」を抜き出してみましょう。

①「公表された著作物」であること
・条文の冒頭ですね。

②「営利を目的としないこと」かつ「聴衆又は観衆から料金を受けないこと」
・まず後半の部分からいえば、「無料」(の演奏会、上映会等)であることが必要、というのはわかりますね。
・細かいケースですが、入場するときに料金を徴収しなくても、予め「会費」といったかたちで料金を納めている会員を対象にした演奏会等であれば、「無料」とはいえないですよね。
・一方、誰でも無料で参加できる「演奏会」等だとしても、それがある企業等が、宣伝・販売促進の一貫として行うものだとしたら、それはその企業等の「営利目的」ために行われるわけですから、前半の部分の要件を満たしません。
・逆に言うと、たとえ公益事業や慈善事業の目的(非営利)で、前半の要件を満たしていても、入場料を徴収する場合は、後半を満たさないので当てはまらなくなります。
・なお、営利企業が行うものであっても、「社員・職員のみを対象にした、親睦目的の利用」であれば、非営利目的となります。たとえば、社内の運動会等で、演奏(音楽をかける)のはセーフ、ということになります。

③無報酬であること
・条文の「ただし、」以降の部分になります。たとえ、上記①・②を満たしていても、演奏会の演奏者や、上演会の出演者等に、ギャラ(報酬)が支払われるものだと、要件を満たさないこととなります。
・報酬が演奏等ごとに払われるものでなくても、演奏者等に月給などで支払われているのであれば、それもやはり無報酬とはいえませんよね。
・例を考えてみると、「無料で入場できる学園祭で、アーティストのライヴ(演奏)があった際、他者が作詞作曲して公開されている曲を、入場者の前で演奏」しても、①〜③を満たしますので、その曲の権利者に許諾を取らずに演奏できることになります…
・…が、もしそのそのアーティストにギャラが払われてしまうと、この条文には当てはまらない、ということになります。

<38条2項「非営利の有線放送等」>

2 放送される著作物は、営利を目的とせず、かつ、聴衆又は観衆から料金を受けない場合には、有線放送し、又は地域限定特定入力型自動公衆送信を行うことができる。


この条文でわかりづらいのは「地域限定特定入力型自動公衆送信」(長っ!)ですよね。

上から順番に分解していくと

公衆送信:ざっくり言えば、放送(無線放送と有線放送)とインターネットを包括する概念(※正確な定義は 第2条第1項第7号の2)

自動公衆送信(同項9号の4):公衆送信のうち、公衆からの求めに応じ自動的に行うもの(放送又は有線放送に該当するものを除く。)をいう→つまりは「インターネットのウェブサイト」などです。

ここで、自動公衆送信には、
「入力型」(公衆の用に供されている電気通信回線に接続している自動公衆送信装置に情報を入力することによるものと
「蓄積型」(公衆送信用記録媒体に情報を記録すること等によるもの。例:ビデオ・オン・デマンド)があるのですが、

→→入力型自動公衆送信:ざっくり、「IPマルチキャスト放送」とか「ストリーミング型インターネット放送」等を指すことになります。

それを、特定の地域に限定したのが「地域限定特定入力型自動公衆送信」ということになります。と、だいぶ回りくどくなりましたが、なんでこの条文があるのかというと、

「難視聴解消」や「共用アンテナからマンション内への配信」への配慮なんですね。

まとめると、この条文にあてはまる要件は①放送される著作物、②非営利目的、③聴衆・観客から料金を受けないのであれば、放送を受信して同時に有線放送する場合や、放送対象地域を限定した放送の同時再送信(IP マルチキャスト放送等)をしていいよ、というものになります。

続く、第3項は、条文は難しく見えますが、実は身近な例を想定しています:

<38条3項:「非営利の伝達」>

3 放送され、有線放送され、特定入力型自動公衆送信が行われ、又は放送同時配信等(放送又は有線放送が終了した後に開始されるものを除く。)が行われる著作物は、営利を目的とせず、かつ、聴衆又は観衆から料金を受けない場合には、受信装置を用いて公に伝達することができる。通常の家庭用受信装置を用いてする場合も、同様とする。


身近な例で、市役所のロビーで、テレビとかモニターを用いて、テレビ番組をそこにいる人に見せているようなケースは、この条文の前段:「①放送等されている著作物を、②非営利目的、③聴衆又は観衆から料金を受けないで、受信装置を用いて、公に伝達」にあたりますので、著作権侵害にならずに自由にできることになります。

一方、それが「ラーメン屋」さんのような飲食店が、テレビを置いて放送をお客さんに見せているようなケースだったらどうでしょう。これは市役所と違って「営利活動」ですよね。しかしこの条文の後段:「通常の家庭用受信装置を用いてする場合も、同様とする。」があるので、

「①放送等されている著作物を、②聴衆又は観衆から料金を受けないで、③通常の家庭用受信装置を用いて、公に伝達」にあたりますので、こちらも著作権侵害にならずに自由にできることになります。

なお、論点としては「通常の家庭用受信装置」って、どれくらいの規模を指すのでしょう?現行の著作権法が制定された昭和45年(1970年)には、想像もできなかったぐらい大きくて解像度の高い大型テレビモニターが設置されたスポーツバーなどもありますが、一般的には少なくとも家電量販店で購入可能なテレビであれば『通常』の範囲内という解釈がされているようです。

また、この3項の冒頭は、当初は「放送され、又は有線放送される著作物」だけだったのですが、法改正を重ね、「特定入力型自動公衆送信」(=IPマルチキャスト放送等)、「放送同時配信等」(=インターネットによる放送「同時配信」等。「追っかけ配信」も含む。)が行われる著作物も対象となりました。

ただ、注意したいのは、かっこ書きの部分「(放送又は有線放送が終了した後に開始されるものを除く。)」です。これはつまり「見逃し配信」は、対象外という意味になります。本規定は,多種多様な形での公の伝達を認めるものであり、特に権利者に与える影響が大きいと考えられることから、「見逃し配信」は除いているんですね。

<38条4項:非営利の「本」などの貸与>

4 公表された著作物(映画の著作物を除く。)は、営利を目的とせず、かつ、その複製物の貸与を受ける者から料金を受けない場合には、その複製物(映画の著作物において複製されている著作物にあつては、当該映画の著作物の複製物を除く。)の貸与により公衆に提供することができる。


公共サービスとして、図書館等の公共施設で、本やCDやレコードなど(=著作物の複製物)を、貸し出すこと(当然、無料で)は一般的に行われていますよね。著作権の一つに「貸与権」もあるのですが、こういうケースでは著作(権)者の貸与権を制限して、貸し出し(貸与により公衆に提供)ができるようにする条文です。

該当するための要件を整理すると、①すでに公表されている著作物であること、②営利を目的としていないこと、③貸与を受ける者から料金を受けないこと、となります。

ところで、「(映画の著作物を除く。)」とありますので、映画やビデオ、DVD等の貸し出しは対象外なのですが、実はそれらについては、次の第5項の対象となります。

<38条5項:非営利の「ビデオ」等の貸与>

5 映画フィルムその他の視聴覚資料を公衆の利用に供することを目的とする視聴覚教育施設その他の施設(営利を目的として設置されているものを除く。)で政令で定めるもの及び聴覚障害者等の福祉に関する事業を行う者で前条の政令で定めるもの(同条第二号に係るものに限り、営利を目的として当該事業を行うものを除く。)は、公表された映画の著作物を、その複製物の貸与を受ける者から料金を受けない場合には、その複製物の貸与により頒布することができる。この場合において、当該頒布を行う者は、当該映画の著作物又は当該映画の著作物において複製されている著作物につき第二十六条に規定する権利を有する者(第二十八条の規定により第二十六条に規定する権利と同一の権利を有する者を含む。)に相当な額の補償金を支払わなければならない。


いろいろ細かく設定されているので、長い条文ですね…しかし、前述のとおり、本稿は(前項が本やCD等を対象にしているのに対し、)ビデオライブラリーなどによる「ビデオ、DVD等」の貸出しを対象とした規定です。先に、当てはまるための要件をまとめてしまうと、以下の5つです:

①視聴覚資料の一般貸出しを目的とする施設又は聴覚障害者等の福祉に関する事業を行う者
(政令で定めるもの)が行うこと
②営利を目的とする施設でないこと
③すでに公表された映画の著作物であること
④貸与を受ける者から料金を受けないこと
⑤権利者(=映画の著作物や、その中で複製されている著作物等の「頒布権」者)に、相当な額の「補償金」を支払うこと

①と⑤は、第4項にはなかった要件ですよね。特に⑤は、「著作(権)者の権利を制限して、自由に著作物が利用できるようにする」制限規定ながら、それなりの「補償金」を支払う必要があるという点で、大きな違いです。

これは、映画の著作物にだけ認められた「頒布権」(=譲渡権と貸与権を合わせたような概念の権利)が認められていることが大きいと思います。これは「映画の著作物」だけの説明を、この連載でするときにまた触れたいと思います。

さて、やっと38条の説明が終わりました。なかなか「制限規定」シリーズが終わりませんが、ステップバイステップで進めてまいります!

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