「商標登録の出願は、お早めに!」とは、いろいろなサイトや本で目にされると思いますし、おつきあいのある弁護士・弁理士からアドバイスされた方も多いかと存じます。
「それって、同じ商標とか、似ている商標を、(重複する商品やサービスの範囲で)他の人が先に出願しちゃうと登録できないから、でしょ?商標って『早い者勝ち』なんですもんね!」
と答えられた方、大正解です(日本の商標制度は「先願主義」ですからね)。
ただ、付け加えさせていただきたい点がございます。
「急いだ方がいい理由は、他にもある」のです…特に、「文字商標の場合」!
です。
まず、「商標登録が認めらない商標」については、商標法3条・4条に「拒絶理由」が定められていて、意外とその種類は多いのですが、
【知財キホンのキ】商標登録出願が「拒絶」されるのって、どんなとき?
https://onion-tmip.net/update/?p=1968
ざっくり分けると、
*3条:そのタイトル「商標登録の要件」
が示すとおり、商標は商品等の”目印”として使用するものですから、他の商標と区別できる力(識別力)がない商標は、誰にも登録が認められませんよ、として5種類挙げられています。
*4条:そのタイトルは、ストレートに「商標登録を受けることができない商標」。
つまり、3条の要件を満たしていても、「こういう商標は、登録を認めるべきじゃないよね」というものを規定するのが4条です。具体的に「公序良俗」とか、「他人の業務に係る商品等との混同や、品質の誤認を生ずるかどうか」といった見地から、19種類の登録できない商標が定められています。
いわゆる“早い者勝ち”の観点は、その中でもメインの拒絶理由ですが、4条(1項11号)に分類されています。商品やサービス(役務)が重複する範囲で、類似する商標が、AさんとBさん(やそれ以上の他人)に併存して登録が認められてしまえば、それらの商標が付された商品等は、「一体誰が提供している商品なの!?」と、混同が生じてしまうから、認めるべきじゃないということですね。
そう言う意味でも、思いついた商標は、既に他者が登録していないかどうかの詳細調査も必須ですし、その上で誰も登録してなさそうであれば、「早く出願しましょう」ということになるのですが、
【本当はコワイ商標の話】商標の”簡易”調査は誰でもできるけど…その落とし穴
https://onion-tmip.net/update/?p=442
実は、もう一つの「メインの拒絶理由」ともいえる「3条」の観点からも、「なるべく早く出願したほうがいいですよ(そうじゃないと、登録できるものも、できなくなってしまいますよ)」というケースがあるからなのです。
それは、3条で定める登録できない商標、つまり
識別力がない「一般的・記述的商標」に、
「最初は該当していなかったのに、いつのまにか該当するようになってしまう」
ケースがあること、そんな中には、
「せっかく自分が最初にネーミングして使い始めた商標なのに、登録が認められなかった!」
となってしまうケースも少なくないからなのです。
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商品「◯◯(※その商品の普通名称です)」に、
ブランド名として使用する名称「□△な◯◯」を、
商標として独占的に使用したいと思って、商標登録しよう!と思ったとします。
その場合、指定商品「◯◯」を選んで、文字商標「□△な◯◯」を出願することになりますが、
もし「□△な」が、「◯◯」の品質や特徴(の産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、形状..etc.)を示す文字に過ぎなければ、「□△な◯◯」全体でも識別力が認められない”記述的商標”として、商標法3条1項3号か、6号の拒絶理由がきてしまうでしょう。
一方、たとえ「□△な」が形容詞だとしても、
「□△な◯◯」と言われても、「えっ、いったいどんな◯◯?」
と思ってしまうような場合、つまり
「□△な」が直接的・具体的に「◯◯」を説明するようなものになっていない場合は、全体に識別力が認められ(=記述的商標とはいえず)、登録が認められる可能性があります…
…って、ちょっと伏字が多すぎてわかりづらいですね。例をあげてみましょうか。
たとえば、指定商品が「トマト」とか「トマトジュース」について、商標
「真っ赤なトマト」
だったらどうでしょう?普通、トマトは赤い色であることが一般的なので、形容詞「真っ赤な」と結合しても、これはトマトの品質や特徴を説明するにすぎませんよね。記述的商標として拒絶されることでしょう。
一方、文字「トマト」を含む商標でも、以下のように複数の登録商標例があります:
・「スイートキューブトマト」(登録6750501号)
・「宇宙トマト」(登録6747277号)
・「空飛ぶトマト」(登録6722662号)
・「シャイントマト」(登録6705482号)
・「プリッとトマト」(登録6683833号)
・「はじけるトマト」(登録6626050号)
・「金のトマト」(登録6624193号)
….etc.
いずれも、「トマト」の前の文字が、トマトを装飾しているとも思えますが、じゃあ具体的に、どのようなトマト(またはトマトジュースなどトマト関連の商品)なのか、わかりませんよね。そこで識別力が認められ(他の拒絶理由もないとして)登録が認められたものです。
さて、この「記述的商標かどうか」の判断ですが、ずっと同じでしょうか? 同じではないですよね。
記述的商標かどうかは、使用状況によって変わってくる
ものです。
1年前に「□△な◯◯」という商品名を聞いた時、どのような「◯◯」なのかわからなかったものの、あっという間に大ヒット、いろいろな個人・企業が「□△な◯◯」を発売した結果、いまや、どのような「◯◯」なのか、一般的に知られるようになってしまったら(※ネットで調べれば、簡単にわかるような状況なら)、もう「□△な◯◯」は、指定商品「◯◯」の商標としては、記述的商標として拒絶されてしまうでしょう。
なぜなら、
商標法3条の拒絶理由に該当するかどうかは、「審査時(査定時)」に判断される
からです。出願したときはまだ「識別力」があっても、出願から審査まで、半年前後かかりますので、その間に識別力が失われてしまうこともありうるということですよね。
このようなケースは、他にも、あるサービスを提供する職業の名称として、自分が新しいネーミングを考えた(、その時点では識別力が認められた)ものの、その職業が急速に普及し、またその名称がわかりやすかったため、その職業の他事業者もみな、おなじネーミングを使ってしまったため、識別力が失われてしまう…などというときにも起きます。
確かに、商標登録(により得られる商標権)は、面白いネーミングを創作した者に与えられる権利でもありませんし、「先願主義」である以上、登録前によほど(その創作者の)商標として著名になっていない限り、先に使い出した人よりも、先に出願した人に優先的に登録が認められる制度ではあります。
それでも、せっかく、自分で考えたネーミングで、自分がその(サービスを提供する)職業のオリジネイターなのに、商標登録が認められない、それも「もっと早く出しておけば、登録されたはずなのに」できないというのは、残念ですよね。だからこそ、
「ちょっと面白いネーミングの商標、考えたぞ」
「でも、全くの造語じゃなくて、ちょっと(商品やサービスの)説明っぽいネーミングかな…?」
と言う場合は、商標に強い弁理士に相談しながら、
ぜひ使用前に(調査と)商標出願を終えてほしい
なと思います。
ところで、無事に商標登録されたあとも、その登録商標を他の人も使うようになり、「ある商品やサービスの名前=その登録商標」となってしまうと、実質的にその商標権が無効化されてしまいます。「普通名称化」という現象です。
【本当はコワイ商標の話】 「普通名称化」~せっかくの登録商標が効力のないものに?
https://onion-tmip.net/update/?p=419
しかし、上記リンクの弊所による記事でもご説明のとおり、商標登録さえできれば、その正しい管理をすることで、普通名称化は防ぐことができます。
商標登録(出願)が早い方がいいのは、「早い者勝ち」(先願主義)だからというだけではなく、識別力=そもそも商標の登録要件が失われてしまう前に、出願・登録をすべき場合もあるから、ということをご理解いただければ幸いです。
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