ONION商標・弁理士の山中です。

技術革新等に伴い変化しつづけるエンタメ業界。そんな時代だからこそ、拠り所とすべきは「著作権法」ですが、「法」に対していきなり細かいところをつつくのではなく、「その全体や構造、考え方を『ざっくり』学んでしまうことが近道だ」という趣旨でご紹介する連載、その第13回です。

第5回では、ひとくちに「著作権」といっても、それはさまざまな「◯◯権」をまとめたような概念であって、ざっくりといえば

「著作者が、自分の著作物を、自分だけが、独占的に◯◯をすることができる」権利だよ

、という説明をしました。https://onion-tmip.net/update/?p=922

しかし、ある一定の場面では、他の人が利用していても、著作(権)者が「利用しちゃダメ!」と言えないように”制限”する規定、その名も

「(権利)制限規定」(著作権法30条〜47条の8)

があります。
(制限規定の理由・目的などはこちら)第7回 http://onion-tmip.net/update/?p=1192

その後、さまざまな制限規定を、ジャンルごとに適宜グルーピングしながら解説していますが、前回に続き、

【マスメディア関連②】

の制限規定をご紹介します。事件や政治の報道に関して、報道機関やメディアが創作した著作物を、他者が適切に利用できるようにするため、
あるいはそうしたメディア(現在はインターネットも含まれますが)が、他者の著作物を適切に利用できるようにするための規定として、前回は、

http://onion-tmip.net/update/?p=2599
<39条:時事問題に関する論説の転載等>
<第40条:公開の演説等の利用>

をご紹介しました。そして今回は、

<41条:時事の事件の報道のための利用>

です。最近、著作者や実演家たりうるエンターテイナーが当事者になった事件の報道も多く、その際にこの条文が取り沙汰されることも多いのですが、結構誤解もあるようなので、ここでその要件を整理していきたいと思います。

(時事の事件の報道のための利用)
第四十一条 写真、映画、放送その他の方法によつて時事の事件を報道する場合には、当該事件を構成し、又は当該事件の過程において見られ、若しくは聞かれる著作物は、報道の目的上正当な範囲内において、複製し、及び当該事件の報道に伴つて利用することができる。

条文自体は短いんです(※ちなみに、2項以降は存在しません)。しかし、短い条文ほど解釈の余地が生まれてきます。ただ、この条文についてはいくつか判例もあるので、そこも拠り所として解説してみたいと思います。

まず、途中を、大事な部分なんですがあえて省略してつなげてみると、

写真、映画、放送その他の方法によって時事の事件を報道する場合には、(中略)〜著作物は、報道の目的上正当な範囲内において、〜(中略)〜利用することができる。

これで、時事の事件を報道する場合には、という場面の限定がつかめました。そしてその前に、その報道の媒体が限定されています。

*「写真、映画、放送その他の方法によって」で気になるのは、”その他の方法”が何を含むのかですね。通説ですが、「新聞紙や雑誌」も含まれるし、また有線放送やインターネットメディアも含まれると解されています。

また、中略しているところから文末までは、

「〜複製し、及び当該事件の報道に伴つて利用することができる。」

となっています。この際に翻訳することもOKです。出所明示の慣行があれば、明示義務があります。

「出所明示義務」?なんて聞くと、この条文がなくても、第32条の「引用」の制限規定を使えば、事件報道の際の著作物の利用はOKになるのではないか?とも思えます。

【ざっくり著作権法】 第8回:「引用(32条)」
http://onion-tmip.net/update/?p=1321

ただ、違いをみると、この41条には「公開された(著作物)」という要件がありませんね。

次に、こういう媒体が「『時事の事件』を報道する場合」と限定されていますね。ということは、

*「現在進行形とか、つい最近起きた」事件が対象
←→過去の歴史的な事件の報道は、対象外

ということになります。

また、単なる「紹介」や「娯楽目的」は対象外になるのは当然だとして、

*どのような内容の「報道」が、対象となるのか?

ですが、かつての判例で
・「ある女優が、映画作品の中でヌードとなった」というのは、事件報道ではないよ
として、この41条の適用を否定した判例があります。

「報道の目的上正当な範囲内において」

という部分は、あくまで「報道目的で必要な範囲だけにしなさいよ」ということで、例えばダメな例として、
・写真で報道する際、入ってくる「絵画」の写真を、上質なカラー印刷で報道
・放送で報道する際、入ってくる「音楽」の、必要以上に長い放送
…などが、考えられますよね。

ちなみに、これも判例なのですが、本条の適用が認められた例として、
・事件を報道したニュース番組7分中、対象となる他者の著作物が4分10数秒使われた、
・またその4分10数秒は、他者の著作物(ビデオ)が全部で1時間27分あったうちの5%に過ぎない
というケースがありました。これは、その4分10数秒が報道上重要な部分である限り、「使い過ぎていない」印象ですよね。

さて、全体をつかんだところで、次からは中略した部分です。
どんな著作物が対象なのか、中略した部分を全部記載しますと、

〜当該事件を構成し、又は当該事件の過程において見られ、若しくは聞かれる著作物〜

が対象なんですね。これをどういう意味か、分解して解説すると、

「事件を構成する著作物」

→わかりやすい例として、「絵画盗難事件における、絵画」などが挙げられると思います。絵画という著作物が出てこないと、そもそもその事件の報道が成り立たないようなケースですよね。あと、前述の「4分10数秒」の例は、実は、「暴力団の一斉摘発」という事件のテレビニュースで、その暴力団組長の襲名式のビデオ(映画の著作物、かな)の”4分10数秒”を使用したというケースでした。

「事件の過程において見られもしくは聞かれる著作物」

→事件を視聴覚的に報道しようとすると、利用を避けることができない事件に登場・出現する著作物です。具体的にいうと、「スポーツニュースで、高校野球の開会式」を報道したら、その過程で「入場曲の演奏が入ってしまった」、というケースの、入場曲(※音楽の著作物)などが考えられると思います。

以上の説明でおわかりいただけると思うのですが、条文が”写真”で始まるので勘違いしがちなんですけど、「報道写真」(※事故の決定的写真!とか)自体を自由に利用できる、というような制限規定ではない、ということですね。

また、最近、トラブルを起こしたエンターテイナーが過去に出演している番組を、「娯楽目的ではなくて『報道目的』なら、自由に使ってもいい」というような、一般のSNS投稿を見ることがあるのですが、そのようなケースは、必ずしも本条には当てはまらないのでは? という疑問が、上述のように本条の要件を確認していくと、出てくるところではあります。

具体名を出していいと思いますが、中居正弘さん(※引退済み)のトラブルが、「時事の事件」に該当するとします。しかし、その事件を報道するにあたり、中居さんが所属していた「SMAP」時代の音楽番組出演映像などは、上で説明した本条の要件、つまり「事件を構成する著作物」でもなければ、「事件の過程において見られもしくは聞かれる著作物」でもないからです。

そもそも論ですが、中居さんを含むSMAPが出演した音楽番組の映像は、地上波各局が製作した、つまり著作権をもともと持っているものがあるでしょう。中に含まれている曲(音楽の著作物)の利用については、放送局はJASRACなどに使用料を払いますので、これも問題なしです。

それでも問題があるとすると、「ざっくり著作権法」ではまだ解説していないのですが、出演して演奏(歌唱含む)している方々の権利、すなわち

実演家の「著作隣接権」

が考えられます。著作隣接権も、いくつかの◯◯権の束で、その中には「録音権・録画権」(第91条第1項)や、「放送権・有線放送権」(第92条第1項)もあるのですが、これらの権利は、専属契約を結んだマネージメントに譲渡されている場合が多いです。

では、マネージメントと放送局の間の契約ですが、当然、最初の放送の際に権利を許諾しているから放送できるわけですけど、その後の「そのままの」再放送(リピート放送)であれば、「契約に別段の定めがない限り」、相当の額の報酬を支払えばOKなことになっています(第93条の2)。

ただ、ここからはケースバイケースで、
・「契約に別段の定めがある」から、再度の許諾が必要
なのは法律上当然だとしても、
・「契約に別段の定めがない」んだけど、放送局からマネージメントへの配慮等により、再度許諾交渉をする
ケースもあるようです。
また、「~定めがない」としても支払うべき報酬額も、妥結しなければいけないわけですが、業界のガイドラインはあるものの、最終的には交渉ベースですから、そこがひっかかって許諾がおりない(そもそも交渉を控える)こともあれば、逆に「見切り発車」で放送し、あとで交渉ということもあるようです。

また、中居さんのかつての音楽番組の映像を、ニュース番組等に使用するとしたら、それは「音楽番組の『そのままの』再放送」ではないので、『二次使用』であると捉えれば、上記の条文(第93条の2)には当てはまらず、実演家の許諾が必要である…という判断も考えられます。

(ちなみに、「かつての人気音楽番組の『まるまるの再放送』でも、一部の出演者が削除されたりモザイクになったりしてるよ?」と言われるかもしれませんが、「契約に別段の定め」があったか、あるいは最初の放送をした放送局ではなく、CS/BS等他の放送局での放送=二次利用のため、出演している実演家の許諾が必要で、それがとれなかった可能性があります。)

以上をふまえると、それまで放送されてこなかった過去の音楽番組の映像(の一部)が、報道番組に使用されるというのは、

*著作隣接権の許諾が必要で、かつては自由に使えなかった(許諾されなかった、あるいは許諾を申請しなかった)が、今回は許諾された?
*もともと使用の障壁は、(著作隣接権含め)著作権法的にはなかったが、その他の理由で控えていたところ、今回は「事件性」の観点、または視聴者のニーズを鑑みて、放送に使用した?

のどちらかなのではないでしょうか。いや、もし制限規定によって許諾なく放送できたのだとしたら…

*第41条ではなく、第32条の「引用」にあてはまると判断して、放送に利用した?

という可能性も考えられます(…ただ、引用の要件も厳しいからなぁ…放送事業によりお詳しい方、いかがでしょうか?)。

もっとも、著作権法とは全く別の観点、たとえば、トラブル報道の渦中にある人物の、かつての活躍を伝える映像の利用について、異論を唱える方もいらっしゃいますし、
https://www.nikkansports.com/entertainment/news/202501260000015.html

逆に、急な引退となった中居さんのファンの方で、こうした映像の放送を視聴できて喜ばれた方もいるのでしょう。

また、かつて専属契約をしていた事務所(旧事務所)に、所属時の活動に関する著作隣接権を(独立/他事務所に移籍後も)残したままの場合、放送局等からの使用の依頼を、旧事務所が理由なく許諾しなかったとしたら、芸能活動の妨害として独占禁止法に触れる可能性もありますし、

逆に、今回の中居さんのように「引退した芸能人」の場合、その「肖像権/パブリシティ権」の取り扱いについての是非も、議論があると思います。

やっぱり、著作権法の勉強でも、「映像」「放送」って、いろいろな条文がからみあっているし、それ以外の法律や業界慣習もからみあってくるので、理解が難しいですよね。今回は事案的にそれらを考察しましたが、やはり著作権法の理解にあたっては、こつこつ、じっくり、やっていくのが正しいと思っています。

ということで、次回はまた「制限規定」、美術の著作物関連のグループを取り上げようかなと思っています。

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲
好評です! ONION商標の新サービス
ロゴ作成+商標登録 =「ロゴトアール®」
https://logoto-r.com/

ロゴ制作から商標登録完了まで、弁理士が一括サポート。
いいロゴに®もつけましょう!
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲