この秋、かなり報道されながら、弁理士としてはどうも「本質が十分伝えられていないな」と感じるニュースがありました。
◎なみえ焼そば商標権トラブルで浪江町商工会が方針撤回。町おこしのはずがSNS炎上でブランド価値を損なう #エキスパートトピ (Yahoo!JAPAN NEWS)
https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/ad93b89e765344936e6ba9aed71d22fbb4a9640e
本件の対象となっているのは、「なみえ焼きそば」という登録商標なのですが、これは「地域団体商標」という制度により登録されたものです。まずはこの制度の目指すところを正しく理解しないと、本件をあやまって受け止めてしまう危険性があります。
また、本来、地域ブランドの保護に活用できるはずの「地域団体商標」制度を、正しく理解することは、他の地域の事業者の皆様にとっても重要ですので、あらためて解説してみたいと思います。
★ポイント1 地域団体商標は、本来「会員(構成員)に使用させる」ためのものである。
実は、弊所ではかつて、地域団体商標に関する記事を投稿しています。
【知財キホンのキ】「地域団体商標」っていったい何?(1)
https://onion-tmip.net/update/?p=743
こちらでも説明している通り、識別力が認められないため、登録が認められないはずの
「地域名+(その地域の)商品・サービス名」からなる文字商標
を、地域の産品等についての事業者の信用の維持・地域ブランドの保護(→日本の産業競争力の強化や、地域経済の活性化につながりますよね)のために、特定の「組合等」が登録することを、特別に認める制度です(※この登録主体「組合等」については、★ポイント2で触れます)。
ただし、この制度を定めた「商標法」の第7条の2(、第一項柱書)には、
(組合等が)その構成員に使用をさせる商標であつて
という表現があります(※かっこ内は筆者の補足)。組合等の「構成員」、つまり商工会等の「会員」に使用させるためのもの、というのが本質なのです。
(商標権者である組合等も使用していいんですが、そもそも「構成員に使用させないことが明らか」な組合等が出願しても、登録が認められません)。
つまり、誤解いただきたくないポイント1つ目は、
◎出願・登録するのは「組合等」だけども、その構成員に使用させるために登録するものである
(→「組合等」が独り占めして、地域の人たちに使わせなくするようなものではない)
となります。
★ポイント2 地域団体商標は、そもそも「ある程度有名になってから」登録するものである
また、地域団体商標の登録要件には、その商標(名称)で販売される商品等が、
「一定の地理的範囲の需要者間で、ある程度有名(※)であること」
という要件もあります。つまり、ある程度有名になってから初めて、登録が認められるわけですね(※商品等によって、その知名度の要件は異なるのですが、少なくとも「全国的な知名度」が求められるものではありません)。
したがって、誤解いただきたくないポイントその2は、
◎「地域団体商標」という制度は、地域の産品等の名称(文字商標)が、そもそも「ある程度有名」になってから、登録されるものである
(→「後出しでずるい!」みたいなものではない)
となります。
★ポイント3 地域の事業者であればみな使用したい地域団体商標は、なるべく使用できるようにルールが担保されている
さらに、こうした「ある程度有名になった、地域の産品等の名称」は、その地域の事業者が使用することを欲するものですから、
◎組合等の設立根拠法に「構成員の加入の自由」が定められていないと、組合等の地域団体商標の登録は認められない(同法7条の2第1項柱書)
(→事業者が、その地域団体商標が使用したいと思ってその商標権を有する組合等に加入を求めた際に、正当な理由なく加入を拒否されないようにしている)
◎組合等が「地域団体商標」を登録する前から使用していた事業者には、一定の要件を満たせば、(構成員にならなくても)その商標を使用できる「先使用権」が認められる(同法32条の2第1項)
(→何らかの理由で、組合等に加入をしないという判断をしても、その地域団体商標が登録される以前から使用していた事業者なら、一定の範囲内でその商標を使用できる)
という点も担保されているんです。
そのように、地域の事業者がなるべく使用しやすくするのであれば、そもそも何で特定の「組合等」に、権利を付与する必要があるのでしょうか。
「地域団体商標」制度はむしろ、その地域「外」の事業者等による、便乗使用を排除できるようにする、という目的がありました。
もちろん、地域「内」であっても、その産品等のブランド力を守るためには、一定の品質や特質を維持することが必要ですし、それを実現するためのルールなどは定める必要はあるでしょう。そうした「ルール等」を組合等が定めて、それに納得した事業者が加入して、ルール等を守りながら使用しよう、ということなのです。
なお、地域団体商標を取得できる「組合等」については、以下の弊所コラムで詳しく説明しておりますが、
【知財キホンのキ】「地域団体商標」っていったい何?(2)
https://onion-tmip.net/update/?p=805
かつては、事業協同組合(農業協同「組合」、漁業協同「組合」)等に限定されていたのが、平成26年に、地域ブランドに主体的に取り組むケースが増えてきた団体として、「商工会」「商工会議所」「NPO法人」等も追加されたものです。
★ポイント4 地域団体商標だろうが、通常の商標だろうが、「使用する商品・役務」の範囲で取得するのはマスト
今回の「なみえ焼きそば」の件では、こんな点も報道をややこしくしました。
◎「なみえ焼そば」名称使用料の徴収撤回…弁護士「飲食店内での提供物には商標権が及ばない」(読売新聞オンライン)
https://www.yomiuri.co.jp/economy/20251114-OYT1T50037/
商標登録(商標権)の大原則として、商標を出願する際は、その商標を使用する「商品」「役務(サービス)」を指定する必要があります。そして、商標登録が認められるときは、その「指定商品・指定役務」の範囲で、商標権が発生します。
その点、飲食物に関連する場合、注意すべきなのは
*テイクアウトなどで販売されるのは、その料理という「商品」
*飲食店で料理を提供するのは、「飲食物の提供」という「役務」
と、異なるのです。この点については、コロナ禍で執筆した弊所コラムでも説明しています:
【ONION商標・弁理士のつぶやき(ときに長め)】テイクアウトとイートインでは、商標登録手続きが異なる?
https://onion-tmip.net/update/?p=372
地域団体商標を取得する際も、地域の名産品(商品)の名称を守るのか、地域の人気サービス(役務)の名称を守るのか、あるいはその両方を守る必要があるのか、これは組合等がしっかりと検討する必要がある(し、弁理士がサポートできる部分はサポートすべき)と言えるでしょうね。
★ポイント5 今回の事案から学ぶべき本質とは?(弁理士目線)
あくまで弁理士目線の意見ですが、今回の事案から学ぶべきことは、「炎上対策」というような観点からではなく、
本来の「地域ブランドを保護する」等の目的達成のために、
地域団体商標をどう取得し活用するかの、
「組合等とその構成員間の、合意形成」の重要性
だと思うんですよね。その地域ブランドを守る活動のために、(地域団体商標の)権利者となる「組合等」はどんな責任を果たすのか、その地域団体商標を使用する「構成員」はどう貢献すべきなのか、そして両者がその地域ブランドを守るためにどう手を携えて行くのか(、それは商標に関する活動だけではないでしょう)、しっかりとコミュニケーションをとる必要があるでしょう。
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