ONION商標・弁理士の山中です。
技術革新等に伴い変化しつづけるエンタメ業界。
そんな時代だからこそ、拠り所とすべきは「著作権法」ですが、「法」に対していきなり細かいところをつつくのではなく、「その全体や構造、考え方を『ざっくり』学んでしまうことが近道だ」という趣旨でご紹介する連載、その第18回です。
この連載は、あくまで著作権「法」から逃げずに、法律の専門家でない方にも理解していただけることを目指して、ざっくり(でも本質を)解説することを目指しているので、いつも法律に沿った内容になるのは当然なのですが、
今回はちょっといつもの趣向を変えてみたいと思います。というのも、ここ数回は、
【デジタル時代の?制限規定】
について解説する中で、特に今ホットな、「生成AI」に関連する条文を解説してきました。
第16回:著作権法30条の4(※2018年改正)の位置づけをざっくり整理。
https://onion-tmip.net/update/?p=3437
第17回:「著作権法30条の4と、生成AIの関係」にしぼって、解説。
https://onion-tmip.net/update/?p=3740
そうなってくると、やはりこの流れで、「生成AIと著作物(著作権)」の関連で、残る基本的な問題を押さえておきたいな、と思うわけです。
★序. 前回の振り返り〜今回のポイント
まず、前回第17回では、
「生成AIの学習段階」
において、著作権法30条の4(情報解析)が重要な役割を果たしていることを説明しました。
つまり、ざっくり言えば
生成AIが他人の著作物を「学習する」こと自体は、一定の条件のもとで許容されている
という話でした。
では、その次の問題です。
生成AIが作り出した「アウトプット」は、著作権法上どのように扱われるのでしょうか?
今回はこの点について、
① AI生成物に著作物性はあるのか
② 誰の著作物なのか
③ 既存著作物との関係はどうなるのか
という順番で、ざっくり整理してみます。
★1.生成AIで作られたものに「著作物性」はあるのか
まず最初の問題は、
生成AIで作られたものは「著作物」なのか
という点です。そもそも、著作権法では、「著作物」とは
思想又は感情を創作的に表現したもの〜
と定義されています。
【ざっくり著作権法】第4回「そもそも…著作物って何だ?」
https://onion-tmip.net/update/?p=878
ここで重要なのは、
「創作的に表現したもの」
という部分です。
自分が著作権法を、大学院や、弁理士試験に向けて勉強していた頃(2010年前後)、機械が絡むもので著作物性が否定されるものとして、よく例にあげられていたのが、「防犯カメラが自動的に撮影した写真・動画」でした。なぜかというと、(ロボットとかドローンもそうでしょうが)防犯カメラが自動的に撮影した写真は、機械が撮影しているので、「(人間の)思想又は感情を創作的に表現したもの」には該当しないからです。
つまり著作権法では、ざっくりいえば、「人間の」創作的な表現を保護する制度なわけですね。
この点からすると、それこそ「機械」の一つとも言える…
AIが、もし自律的に生成しただけのものだとすれば、
→ 著作物性が認められない可能性が高い
ということになりますよね。
一方、生成AIの場合は、「人(人間)」が、その(思想又は感情にもとづいて)指示をする、いわゆる「プロンプト」を与えて創作させるケースも多いですね。つまり、
AIを使っても、そこに人の「創作意図」と「創作的寄与」が伴っていれば、
→ 著作物性が認められる可能性がある
と、整理されることが多いわけです。
つまり、生成AIを「ツール(道具)」として、人間が利用して上で作成した著作物であれば、著作物になりうる、というざっくりとした理解は成り立つのかなと思います。
ただし、認められる「可能性がある」としたのは、(現状の著作権法に明示されていない、というのももちろんですが)、プロンプト等を指示した
人間の「創作的な関与具合」にもよる
と考えられるからです。プロンプト等「指示・入力された分量」や「生成の試行回数」、そして「複数の生成物からの選択」の有無、そしてそれぞれの内容によって、「人間の創作的寄与の有無」は変わってくるのでしょうからね。
たとえば、「AI利用者がプロンプト等の指示を何ら与えず(完全なランダムで)AIに生成させた」のであれば、それは「AIが自律的に生成した」に該当するだろう、というのはみなうなずくところだと思いますが、
「 AI利用者がごく簡単な指示(「猫の画像を生成して」等)のみ与えてAIに生成させた」というケースだと、指示・入力がとても「創作的表現」の指示とはいえませんから、「AIが自律的に生成した」と判断される、すなわち著作物性が認められない可能性が高いということですね。
★2.著作物だとしたら、「誰の著作物」になるのか
次に問題になるのは、
AI生成物が著作物だとしたら、誰の著作物なのか
という点ですが、これも上記★1.の「著作物なのか否か」の検討に、拠り所がありますよね。
現在の著作権法の原則に当てはめていけば、「人」ではないAIが自律的に作成したとしても、そこに「(人の)思想又は感情」が表現されていない以上、著作物にならないのだとしたら、
AIそのものが著作者になることはない
と考えられます。
逆に、AI生成物に著作物性が認められ得る場合が、人が「創作意図」と「創作的寄与」を伴うAI利用により生成した場合、すなわち
「AI利用者がこれに対して、人が思想又は感情を創作的に表現するための『道具』としてAIを使用したもの」と認められたケースである以上、その場合の著作者とは、
AI利用者が著作者となる
と考えられます。
★3.既存の著作物との関係〜生成AIの利用が「著作権侵害」になる!?
そして、実務上注意していただきたいのが、
生成AIが学習すること自体がOKでも、アウトプットが侵害にならないとは限らない
という点です。
この「ざっくり著作権法」では、まだ著作権侵害について紹介していないので、簡単説明しますと、
そもそも、著作権侵害が成立するかどうかは、
①類似性と②依拠性
という枠組みで判断されます。
つまり、創作した著作物が、「既存作品(他者の著作物)に似ている」だけでは著作権侵害にはなりません。
類似していることに加えて、「既存作品の存在を知っていて、それをよりどころに作られている」と評価されると、著作権侵害を構成するのです。
さて、これを生成AIに当てはめてみると、
①生成AIを利用してアウトプットしたもの(AI生成物)が、既存の著作物と似てしまうと、「類似性」を満たす
(※似せるように指示した場合はもちろん、たまたま似てしまった場合も該当します)
加えて、以下の2つのパターン:
②-a: AI利用者が既存の著作物を認識している場合、
②-b: AI利用者は既存の著作物を認識していないが、当該既存の著作物をAI学習に用いていた場合
は、「依拠性」も満たし、著作権侵害を構成する
と考えられているのです。
たとえば、既存の著作物の存在を知っていて、わざとそのようなものをアウトプットするように指示をした場合は、①と②-aを満たすことになりますので、そのAI生成物は、(いずれかの制限規定に該当しない限り)「著作権侵害」を構成します。
また、もっと怖いのは、既存の著作物の存在は知らなかったのに、生成AIで学習させたデータの中に、その著作物が含まれていて(②-b)、アウトプットしたものが結果、その著作物に似てしまった(①)場合も、「著作権侵害」と評価される可能性があるのです。
★4.まとめ〜生成AIの利用者が注意すべきこと
生成AIに対する注意点としては、「既存の著作物の著作者・著作権者」や、「AI開発者」「AI提供者」の立場もあるわけですが、今回は最も多い「生成AIの利用者」の目線でまとめたいと思います
(だって、ここまで見てきたようなリスクがあるとしても、生成AIという技術は今後も広く使われていく以上、「使わない」という選択肢は現実的ではないですからね。)
① 「アウトプット」はそのまま使ってよいとは限らない
まず一番重要なのは、
生成されたものを、そのまま使ってよいとは限らない
という点です。
前の★3でも見たとおり、
・既存の著作物と似てしまう、かつ
・依拠性が認められる
といった場合には、著作権侵害が成立する可能性があります。
つまり、「AIが作ったから大丈夫」ではないということですね。
では、利用者として何をすべきかというと、まず基本はシンプルで、
「既存の作品に似ていないか」を意識することです。
たとえば、
・特定の作家名を指定して生成した
・特定の作品に似せるような指示を出した
といった場合は、当然リスクが高くなります。
また、自分では意図していなくても、生成物が結果的に似てしまうこともあります。ですので、
・そのまま公開・販売する前に確認する
・違和感があれば修正する
といった対応が、実務的には重要になります。
② 「創作への関与」を意識した利用
次に、★1・★2とも関係するポイントですが、
どこまで自分が創作に関与しているのか
という点も重要です。これは、
・著作物性が認められるか
・誰が著作者になるのか
という問題だけでなく、
後からトラブルになった場合に、「自分がどのように関与したのか説明できるか」という意味でも重要です。
具体的にいえば、
・どのようなプロンプトを与えたのか
・どのように生成結果を選択・修正したのか
といった点は、意識しておく必要があります。
③利用規約・サービスのルールにも注意する
さらに、少し法律から離れた観点ですが、
利用しているAIサービスの規約
にも注意が必要です。たとえば、
・学習への利用の可否
・出力物の利用条件
・商用利用の可否
などは、サービスごとに異なります。
著作権法上は問題がない場合でも、契約(利用規約)違反になる可能性がある、という点は見落とされがちです。
④「従来の著作権の考え方」は、やはりベースにある
最後に重要なのは、
生成AIの問題は新しく見えても、
・著作物とは何か
・著作者とは誰か
・侵害とは何か
・どういうケースなら、著作(権)者以外も自由に利用できるのか→制限規定
という基本的な枠組み自体は、
従来の著作権法の考え方の上に成り立っている
という点です。
確かに、「著作権法」は、現代のさまざまな事象・ビジネスに追いついていない、というような批判もあります。しかし、「著作権(法)の基本的な考え方」をしっかりもっていれば、生成AIのような新しいビジネスについても、その「基本的な考え方」に当てはめて考えることで、問題の理解の近道になると確信しています。
あらためて、この「ざっくり著作権法」の執筆を継続していくことの重要性を、確信する次第です。
さて、長かった「制限規定」の章は一旦今回で終えて、次回からは、著作者の権利として極めて重要な「著作者人格権」について考えてみたいと思います。
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